【新連載】豊橋技科大の教養改革~リベラルアーツへの誘い 第1回 教養教育の歴史 豊橋技術科学大学 中森康之教授

2024/11/29 20:00(公開)
今年度の改革で始まったリベラルアーツ入門講座

 豊橋技術科学大学で、新しいリベラルアーツ教育がスタートしました。今年4月、文理融合・異分野協働による対話型授業「リベラルアーツ入門」が新設されました。

 

 「リベラルアーツ入門」は、学部1年生を対象とした授業です。異分野の複数教員が同時に教室にいて授業を行う点、1クラス20人以下の少人数という点に大きな特徴があります。

 

 具体的な内容については次回以降に説明することにして、今回はそのような授業を新設するに至った経緯についてお話ししましょう。

 

開学時から受け継ぐ「教養重視」

 

 豊橋技術科学大学(以下、技科大)は、1976年、指導的創造的技術者を養成する工学部の単科大学として開学しました。あと2年で開学50周年を迎えます。他大学と違うのは、学生の約8割が3年次に編入してくる高等専門学校(高専)の卒業生という点です。

 

 高専は専門科目の履修時間が多い半面、教養教育に充てられる時間は少ないです。つまり優れた専門技術を身につけられる一方で、専門外の知識や教養が不足しがちでした。そのような教育環境で学んだ学生を多数受け入れる大学として、どのような教育課程が必要か。開学前から繰り返し議論されてきたテーマでした。その記録を見ると、当時の教員が本気になって、熱く技科大の教育を語り合った様子がうかがえます。

 

 その中で、高専は一般の高校と比べ、人文・社会科学の科目の履修時間が少ない点が議論されました。技科大が養成しようとする「指導的創造的技術者」とは、ただの専門知識保有者ではなかったからです。技科大が育てたい人材は、優れた専門知識や技術に加え、広い社会的視野、組織の指導者としてふさわしい教養、総合的判断力、理解力を兼ね備えた技術者だったからです。そこで、大学院でも教養教育を学べる環境と、それを責任をもって行う組織を正式に設けました。

 

 このように技科大では開学以来、教養教育を重視してきました。そして技科大の教養教育は、人文・会科学科目の他、国語力を養成する「日本語法」の必修、英語をはじめ外国語科目など、工学部の単科大学として充実したものでした。異分野横断的なテーマを扱う「総合科目」もその一つです。既成の授業科目の枠にとらわれず、広い視野を養う目的で開講された科目で、私が着任した2000年にも続いていた科目です。

 

 しかしその後、社会的課題の変化、価値観の多様化、科学技術の急激な進歩等によって、従来の教養教育を見直す必要が生じました。

 

2010年「総合教育院」を創設

 

 そのような中、10年の大規模な学内再編で、教養教育を担う組織として総合教育院が創設されました。総合教育院では従来の人文・社会科学に自然科学・基礎工学を加えた、新しい教養教育を構想しました。それらを総称し「リベラルアーツ教育」と名付けました。

 

 しかし教育は急に変えるべきではなく、少しずつ改善する必要があります。カリキュラムは従来のものをほぼ踏襲し、個々の教員が各授業で新しい工夫をすることから始め、折りに触れて議論を重ねました。

 

 それらが蓄積し、機が熟した19年、総合教育院の若手教員を中心に「〈リベラルアーツ教育〉研究チーム」が発足。これからの技科大にふさわしい新たなリベラルアーツ教育について、本格的な議論が始まりました。

 

 そして20年に始まった第4期中期目標にもリベラルアーツ教育改革が明記され、私が担当の学長特別補佐に任命されました。総合教育院内では開学当時の先輩方に負けないくらいの熱い議論を繰り返し、結果として「リベラルアーツ入門」が誕生したのです。

    ◇

 豊橋技術科学大学は24年度から教養教育の改革に着手しました。科学技術の分野で高度人材の育成が求められる中、課題発掘や解決策を見出すには、専門分野の知識に偏らない幅広く豊かな教養が欠かせないという考えが原点にある。今年度の取り組みをはじめ、大学が掲げるリベラルアーツ教育の楽しさ、目指す方向性などを担当教員が紹介します。

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中森康之(なかもり・やすゆき)

 2000年、豊橋技術科学大学に着任。教育学修士、博士(文学)。日本古典文学を中心に、日本文化、哲学、建築思想、教育の視点から「普通の人が日常を生きることを支える力」を研究している。23年に『蝶夢全集』(正・続、共編著、和泉書院)で文部科学大臣賞を受賞。主な著書に『芭蕉の正統を継ぎしもの 支考と美濃派の研究』(ぺりかん社)、『門人から見た芭蕉』(共編書、和泉書院)、『はじめての哲学史』(共著、有斐閣)がある。

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