豊橋技術科学大学(以下、技科大)で、新しいリベラルアーツ教育として文理融合・異分野協同による対話型授業「リベラルアーツ入門」がスタートしたことは前回記事で紹介しました。本学のような単科工業大学において、このようなリベラルアーツ教育を強化する必要性に関しても、大学の特徴を踏まえて説明されています。今回の記事から、実際にどのような講義が行われているのかを具体的に紹介します。これに先立ち、今回は「リベラルアーツ入門」の導入で、どんなメリットがもたらされるかを期待を込めて紹介していきます。
前回紹介したように技科大の最大の特徴は、学生定員の大多数が高等専門学校(高専)の学生であり、その割合は80%にものぼりますが、そのほかの20%は留学生や大学共通入学テスト、学校推薦で選抜される高校卒業生から構成されています。これらの学生は、他の大学と同様に学部1年次から入学し、3年次に進学する際に、高専の本科5年で卒業し編入学してくる学生と初めて合流することになります。多種・多様な修学履歴を有する学生が共存する極めて特異な環境が形成されます。
一般に、高専出身学生は、早くから工学教育を受けており、興味を持つ専門分野に対して強い関心を持っている反面、専門に特化し過ぎることから、無駄なく短時間でそれらの専門知識のみを吸収しようとする傾向があります。研究が忙しく時間的な余裕がないことも事実ですが、専門分野という敷居を設けずに未知の領域に踏み込み多様な知識を吸収しようとする能力を身に付ける必要があると感じます。
一方、高校から入学してくる学生は、一年次の時点では専門分野の「入り口」に立った状態であり、良い意味で分野や領域にこだわりが少なく、より柔軟に「科学」を受け入れることができます。新設した「リベラルアーツ入門」は、先ず、このような入学直後の一年次学生に開講することで、教養、総合的判断力、理解力を兼ね備えた技術者の素地を形成するために有意義であろうと判断しました。
次回以降、本年度実施した講義内容の詳細を紹介していきますが、今年度実施した実績を総括するとおおむね目論み通りの成果が得られているのではと思われます。筆者が一部を担当した講義アンケートでは、「興味がなかった分野の楽しさに気づいた」、「広い視点で物事を見られるようになった」、「他者の意見を受け入れながら新たな発想にたどり着くための経験ができた」等々、グループワーク中心の講義に戸惑いながらも、我々が期待したような能力を身に付けた、または身に付けるきっかけを得たものと判断できます。
実は、ここで、もう一つ密かに期待していることがあり、このような素地を持った学生が、3年次で高専卒業生と合流することで新たな化学変化が生まれるのではないか、専門重視で視野が狭くなりつつあるマジョリティーである高専卒業者に大いなる刺激を与えてくれるのではないだろうかと考えられます。リベラルアーツ入門の応用編を3年次入学生にも新たに展開する計画ですが、事前にまかれた今回の「タネ」が今後の試みをさらに加速させてくれるものと大いに期待しています。
この記事を読んでくださる地域の皆様にも見守って頂きながら、特殊な環境である本学でなければ実現し得ない新たなリベラルアーツ教育の確立を目指していきたいと考えています。
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福島高専、豊橋技術科学大学で学び、1997年、豊橋技術科学大学に着任。博士(工学)。ナノテクノロジーを基本とした材料開発の研究に従事し、共著を含め約250報の研究論文があり、21年に日本セラミックス協会学術賞を受賞。主な著書に講義用教科書として多く用いられる『ベーシック 無機材料科学』(共著、化学同人)がある。
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