東京都八王子市出身の福光文さん。
現在は愛知県豊根村に、子ども3人と夫、夫の母と三世代で暮らしています。イラストレーター兼デザイナーとして活動しながら、役場のパートで働いています。彼女がこの地に来たきっかけは、「花祭」との出会いでした。
奥三河で働き、暮らす魅力について、お話しを伺いました。
「まさかその時は、自分がこの地に住むことになるとは思ってもいなかったです。」
福光さんが奥三河と出会ったのは、大学時代。大学で民俗学を学ぶ中で、花祭を知りました。
「初めて奥三河の花祭を訪れたのは19歳の時でした。地域の方々が、土地に縁のない人間であっても祭りの輪に入れてくれて、『子鬼を舞ってみんか?』と声をかけてくださったんです。友人と一緒に挑戦して以来、ハマってしまいました。」
都市部で開催される祭りと言えば観客は『見るだけ』がほとんど。しかし花祭は、地域の人々が主体となり楽しむものだけれど、外の人も受け入れてくれる…その懐の深さに心を鷲掴みにされました。
こんなお祭りがあったのか、とその文化と土地の人々に魅了され、その後も毎年のように奥三河を訪れました。
当時花祭は奥三河の17地区で行われており、全地区踏破しようと全ての花祭に訪問。各地を巡るうち、豊根村の花祭を伝承する夫と出会い結婚。豊根村での生活が始まりました。
住み始めた当初は、生活環境の違いに戸惑いもあったといいます。
大型家具や家電、オムツ・離乳食などの近隣で購入が難しい物は、ネット通販を活用しました。友人や知人からの情報に助けられ、通院や出産等の不安を一つ一つ解決していったそうです。
「周りの人たちが理解してくれる環境があったおかげで、とても心強かったです。特に子育てをする上で、集落の方々の温かさを感じることが多かったですね。近所の方が声をかけてくれて、子どもと遊んでくれたり、行事やこの地に伝わる習慣を教えてくれたり、いろんな場面で助けられました。」
「人や家、集落や行事での繋がりがあり、助け合える。そんな暮らしのあり方に触れて、ここで生活していくことの良さを感じられるようになりました。」
家族や友人、周囲の人々の支えもあり、少しずつ村での生活に馴染んでいきました。
そうして落ち着いてきた頃、3人の子どもの育児をする中で働き方を考えた時、以前の仕事をもっと深めたいと考えるようになりました。
福光さんは幼少期より絵を描くのが好きで、高校は都内に2つだけしかない美術コースのある高校へ進学し、美術漬けの毎日を過ごすほどでした。大学では民俗学、芸術を専攻し美術教師の資格取得。その後、アニメーターとしてディズニーアニメーションジャパンに入社します。
しかし、過酷な労働環境の中で体調を崩し、1年で退職。
その後結婚、出産、移住、子育てとライフイベントを経て、山でのゆるやかな時を過ごす中で、少しずつ新たな創作意欲が湧き上がってきました。
もう一度学び直したい気持ちに駆られ、東京のイラスト塾に通うことを決意しました。
そこでいくつもの作品を描き辿り着いたのが、今のやさしく淡いタッチで描く水彩画のスタイルです。
自然の中で戯れる子どもをモチーフにするのは、子どもと共に過ごす日々の中に創作意欲を掻き立たられる可愛さや美しさがあり、子どもたちの今しかない時間を絵にして留めたいという思いからだそうです。
「商業誌のイラストを担当することになったのが大きな転機でした。そこから、地域の方々にも私の仕事を知っていただけて、イラストやデザインの依頼をされるようになったんです。」
子育てが落ち着くにつれ、少しずつ仕事が増えていきました。豊根村の道の駅「豊根グリーンポート宮嶋」では福光さんのイラストパネルが出迎えてくれます。(なお、道の駅は現在臨時休業中で春より再開予定)
また、家にこもっての作業が多く、普段出会わないような人とも仕事がしたいと思っていたところに、役場の仕事も声がかかり、現在は学校教育関係の業務を担当しています。教育に関わるようになり気づいたことは、村の人たちが学校以外でも子どもが活動できる場を増やしてくれていることです。
地域の方々がそれぞれの得意を活かし、みんなのための場づくりを続けてくれていることに感謝の念を抱き、福光さん自身もなにか始められないか考えました。以前子ども対象の図工教室を開いていた経験をもとに、仲間と共に図工教室の再開を計画中だそうです。
他にも地域の親たちが、それぞれが主体となって自主的に小さな場づくりを始めています。
「地域の人たちと協力すれば、できることはたくさんある。誰かが動けば、それを応援してくれる人が必ずいるんです。」
イラストレーター、デザイナーとしての活動では新たな挑戦として「自分史制作」を請け負うプロジェクトに取り組んでいます。
自分史は、自分や家族の半生、その時の想いや考えを文章などで記録するもの。
「人生の節目でそれまでを振り返りイラストと文章で思い出を記すことで、写真だけでは残せない感動物語を形にできるのではないかと考えています。」
イラストと文章で創る、自分だけの想いを一つの制作物として本のカタチに出来る魅力的なサービスです。
また、今後も地域でのつながりを大切にしながら、豊根村で自分らしく働きたいと話します。
「豊根村で暮らしながら、できることを増やしていきたい。自然と子どもを描きながら、地域との繋がりや、人との縁を大切に創作活動や創作の場を増やしていけたらいいなと思います。」
花祭との出会いがきっかけで奥三河へと導かれた福光さん。
今では上黒川地区の花祭りに家族全員で携わっています。
今年旦那さんは榊鬼を、末っ子は子鬼デビューされました。
花祭のバトンを引き継ぎ、さらに継承していく様が、家族三世代で見て取れます。
今後も「好き」が繋がり、そこから新たな縁が生まれ、イラストやデザインで地域との関わりをより深め、創作活動をしていきたい、と笑顔で話されていました。
彼女の暮らしは、これからもこの地で広がり続けることでしょう。
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西尾市出身、35歳。現在、「言ノ葉工房」の屋号で、ライター、クリエーティブディレクター、採用代行をしている。文章制作やコンテンツの企画を中心に活躍中。趣味は温泉めぐり。
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