【連載】愛知学院大尋木准教授の東三河と国際法<3> 企業経営における性的少数者への合理的配慮

2025/03/03 00:00(公開)
各国の同性婚法制定に関する動因

 社会的弱者の雇用が、人材不足への対応のみならず、企業の強みともなりうることは、前回記した通りである。今回は、性的少数者の権利保障と雇用戦略を考える。

 

性的少数者に関する用語法

 

 性的少数者と同義的に使われる用語として「LGBTQ」がある。レズビアン▽ゲイ▽バイセクシュアル▽トランスジェンダー▽クィア/クエスチョニング-の頭文字をとった用語であるが、そのほかにも性的感情を抱かないアセクシュアルなど、多様な性的指向があるため、頭文字ですべてを包含することは難しい。

 

 また、恋愛対象を元にした性的指向だけでなく、自らの性をどう認識するかという性自認も性的少数者に内包される。そのため、国連では、性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字をとった「SOGI(ソジ)」という用語が使われることが多い。

 

 さらに、服装や言葉づかいなどの性表現(Gender Expression)と、外性器や染色体などの性的特徴(Sex Characteristics)を加えた「SOGIESC(ソジエスク)」という用語も使用される。

 

各国の同性婚法制の状況

 

 日本では、同性婚は法的に認められていない。各国の同性婚法制定に関する動因=表=に目を向けると、米国は2022年に、連邦政府が同性婚を擁護する結婚尊重法が制定された。しかし、現トランプ政権下では性的少数者の権利は縮小され、政局に左右されている。

 

 最も立法の進む欧州諸国も、20世紀後半まで存在した同性間の性行為を処罰するソドミー法の反省が背景にある。ハンガリーのように、近年反LGBT法を制定する国もある。

 

 中国は独裁への悪影響の排除の観点から、ロシアでは反欧米イデオロギーから、同性婚禁止の姿勢が明確にされている。他方で、台湾では中国と一線を画した体制を顕示する目的もあり、19年に同性婚法が制定された。

 

 タイは性的少数者に寛容な国だが、同性婚が法的に認められるようになったのは、今年1月である。このように、多くの国の同性婚認否の背景には、各国の政治的な事情が垣間見られられる。

 

 そうした特段の事情のない日本ではタイなどを参考に、真に性的少数者の権利保障の観点から、同性婚を法制化することが求められよう。

 

国際法に基づく性的少数者の権利保障

 

 現在、性的少数者の権利保障に特化した条約はない。他方で、国連人権理事会の普遍的定期審査や各人権条約の報告制度においては、日本に対して、性的少数者差別禁止法の制定等の勧告がなされている。

 

 17年に国連人権高等弁務官事務所が策定したLGBTI企業行動基準は、企業に性的少数者に関する五つの取り組みを求めている。

 

 すなわち、常時の①人権の尊重、職場における②差別解消と③支援の提供、市場における④取引先等への差別解消のはたらきかけ、社会における⑤行動と連携である。

 

 「ビジネスと人権」の考えが基礎にあり、企業方針に性的少数者の権利保障を規定したり、相談窓口を設けたりすることが求められる。

 

物語コーポレーション本社

日本のSOGI理解の状況

 

 日本では、23年にSOGI理解増進法が制定され、企業に対しても、SOGI理解に関する普及啓発、就業環境の整備、相談の機会の確保等の努力義務が課された(6条)。

 

 同性婚と出生率低下の無関係性やトイレ、公衆浴場の適切な利用など、基本的な理解も必要となる。若者の理解が進む一方で、高齢者の理解が得られないのは各国と共通する課題である。

 

自治体による性的少数者の権利保障

 

 近年、性的少数者の事実婚を自治体が認証するファミリーシップ宣誓制度が徐々に増えてきている。

 

 24年には豊橋、豊川、蒲郡、新城、田原の東三河5市と静岡県湖西市が連携協定を締結した。転居時に簡易手続で宣誓制度の継続が認められることとなった。

 

 これらの自治体で事実婚を宣誓すると住民票への「縁故者」の続柄記載が認められ、配偶者や家族に認められる一定の行政手続の申請、代理を縁故者が行えるようになる。

 

性的少数者雇用による三方よし経営

 

 今日なお、性的少数者の権利保障は十分ではない。しかし、だからこそ、企業で一歩進んだ人権の尊重を実践することで、きめ細かな応接能力や、シスジェンダーとは異なる着眼点を有する優れた人材を得られるビジネスチャンスを見いだすことができる。

 

 前回記した障害者への合理的配慮は、そのまま性的少数者にもあてはめて考えるべきであろう。豊橋市に本店のある「久遠チョコレート」は、多くの障害者の雇用で注目を集めているが、性的少数者も積極的に雇用している。

 

 「焼肉きんぐ」などの外食事業を展開する「物語コーポレーション」(本社、豊橋市)は、同性カップルに婚姻関係と同等の福利厚生制度を用意したり、性別を問わず着られる制服を用意したりすることで、働きにくさを感じて他社を退職した有能な性的少数者の雇用に成功している。

 

 男性であれ、女性であれ、性的少数者であれ、企業にとっては同じ労働者である。こうした先進的な取り組みを参考に、社内に多様性を取り込むことで、三方よしの経営を導かれたい。

 

執筆者の紹介

 

尋木准教授

尋木真也(たずのき・しんや)

 

 熊本県出身。2005年3月、早稲田大学政治経済学部政治学科卒。08年3月に早大院法学研究科修士課程を修了。15年4月、愛知学院大学法学部の専任講師。20年2月から現職。専門は国際法と国際人道法、安全保障法

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