豊橋市立松山小学校の校長などを務め、「とよはし市電を愛する会」「豊橋交響楽団」「豊橋文化振興財団」などで活躍、地域文化の発展に多大な貢献をした市勢功労者の伊奈彦定さんが2月26日、心不全のため亡くなった。90歳だった。葬儀は1日に営まれ、教育関係者や文化関係者、市電を愛する会関係者、教え子らが別れを惜しんだ。
1935年、東京生まれ。42年に疎開で豊橋市へ。県立豊橋東高校、愛知学芸大学(現愛知教育大学)を経て、95年まで小中学校の教壇に立ち子どもたちの教育に力を注いだ。2人の娘、2人の孫にも恵まれ、退職後は「路面電車のある風景」の絵画制作をライフワークとしてきた。交友関係も広く、90歳になっても教え子との交流が続いた。3年前に大病を患い入退院を重ね、最近はリハビリをしながら自宅で穏やかに過ごしていたが、2月22~24日の3連休で体調を崩したという。
郷土愛の象徴として、教員時代から路面電車に着目し、豊橋鉄道市内線を中心に地元の鉄道、各地の路面電車などを通じて時代を見つめ、歴史の考察に励んだ。市民団体「とよはし市電を愛する会」に所属、カレンダー「市電のある風景」の原画を長年描き続けたほか、会長も務めた。
また「豊橋交響楽団(豊響)」を立ち上げた故森下元康さんとは教員時代から親交を深め、定期演奏会ポスターやプログラムデザインを手掛けたほか、理事長も務めるなど長年支援を続けた。
地元小中学校の現役、元教諭らの研さんの場にと作った「グループ創」にも参画、年2回の発表を続けたほか、一昨年まで45年間続けてきた地元有志による「チャリティー絵馬展」の中心メンバーでもあった。2005年秋には瑞宝双光章を受章している。
「本の豊川堂」会長で、とよはし市電を愛する会会長の髙須博久さんは「1987年からのお付き合い。『市電の絵を描く人がいる』と岩西小学校長だった伊奈さんを紹介され、学校まで絵を見に行って出版を持ちかけたのが画集『市電のある風景』でした。画集が縁で『市電をまちづくりの一助に』と設立したのが『とよはし市電を愛する会』。会長も務められ、カレンダーの原画はもちろん、ほっトラム導入時は先生に絵を描いてもらいレジャーシートを作って売り上げを市に寄付したことも。画集は好評で重版ではなく新たな絵で第3集まで作りました。お父さんが国鉄マンで電車に興味があり、疎開先の豊橋で市電にひかれたと聞きます」と振り返る。
「文章も書ける人で、中学国語の教科書に文章が採用されたこともあります。絵に対する情熱はすごかった。豊橋ゆかりの作家、稲垣瑞雄さんの短編集『砂の記憶』のカバーイラストもお願いして描いてもらいました。豊橋交響楽団のことも一生懸命されていた」と髙須さん。
その豊響理事長で星槎大学特任講師の大竹良夫さんは「私が鷹丘小学校に赴任した1978年、友人の紹介で森下元康氏と伊奈彦定氏に初めてお会いしました。場所は当時の二人のお気に入りの居酒屋『はっちゃん』。64年に羽田中で豊橋リードフィルハーモニー交響楽団を誕生させ、73年に日本アマチュアオーケストラ連盟、85年にトヨタ青少年オーケストラキャンプを、2007年ついに世界アマチュアオーケストラ連盟を立ち上げた時も常に2人は一緒でした。2人は居酒屋数軒で酒を酌み交わしながら夢のような構想を現実に変えていきました。ライオンのように吠えまくる森下氏と学者のように意見する伊奈氏は、火を噴くような激しい口論をしていたかと思うとゲラゲラ笑い合うありさま。2人の底知れぬ創造力と実行力を目の当たりにする、神聖なる時間に数多く立ち会いました。今頃、上の方で、お2人はまた続きをしているのだろうな、と思います」としのぶ。
フットワークが軽く、気さくで温厚。筆まめでもあった。妻の禮子さんは「留守がちだったが、帰宅するとその日あったことをいろいろ話してくれた。家族には楽しいことしか言わなかった。前向きで大病しても持ち直した。建て替えの時に校長だった松山小学校の前を通ると、笑顔でレリーフを見ていました」と話す。「口癖は、いろんなことができて楽しく幸せにやってこれた。いい人生が送れたのは、多くの皆さんの力添えがあったから。亡くなったら『ありがとう』と感謝を伝えて-でした」という。
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愛知県豊橋市生まれ。大学卒業後、校閲記者として入社。1年後に報道記者に転身した。2020年から報道部長。芸術、福祉、経済・奉仕団体などを担当する。趣味は、かなりジャンルに偏りのある読書と音楽鑑賞。思考のそっくりな一人娘と趣味を共有している。
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