【奥三河ハタラク図鑑②】美しい水源のように、黒子として支えるひとでありたい~したらワークス協同組合 清水貴裕さん

2024/12/31 15:41(公開)
清水さん

清水貴裕さんは、京都出身の53歳。

26年前に愛知県に住み、設楽町に都デザインのオフィスを構えました。

現在、豊川市との2拠点生活をされています。

東三河地域で働く魅力についてお伺いしてきました。

 

清水さんのキャリアは、京都で高校教師をしたことからスタートします。

高校の野球部で、温かく包容力のある恩師に出会ったことがきっかけで目指した職業でした。

就職氷河期で正教員の募集がほとんどなく、困った矢先、当時鳳来町(現新城市)の全寮制高校の寮職員の求人を見つけたことから、愛知での生活が始まりました。

不登校経験者など約300人の生徒とともに寮で寝起きし、昼間は授業を行う生活。

教員も全国から集まり、いわゆる金八先生のような熱い方が多く、感化されたと言います。

しかし、そんな生活も4年で終わりを迎えます。

「燃え尽きましたね、完全に」

 

もう教育に関わるような仕事はしたくないと畑違いの職を探し、奥三河の工場で勤め始めます。

 

当時、デザインやWebについて独学で勉強していた清水さん。

自然と「独立」の2文字が、頭をよぎるようになっていったと言います。

勤め先の社長に相談すると、背中を押されるように、独立する運びとなりました。

しかし最初の3年間は、ほぼ無給に近かったのが現実。

「このまま資本が尽きたらあきらめようと考えていましたが、幸運なことに周りの人に支えられながらなんとか少しずつ前進していました」

そして、農業の盛んな東三河の篤農家を集めた「豊橋百儂人」の設立や、豊川用水通水50周年記念「エロティック東三河」の総合プロデュースを経験し、2019年に設楽町に拠点を構えることになります。

設楽町を選んだ理由は、水源に近いところに住みたい、という思いからでした。

「僕の育った京都の伏見には酒蔵がいっぱいあって、酒造りにはきれいな水が必ずあるんです。水って普段からあって当たり前で、有り難みを感じない黒子みたいな存在。でも、幼少期その貴重さを学んだことが心に残っていて、水源に興味を持っていました」

 

導かれるように辿り着いた、絶対的な魅力のある森と水の美しい設楽町で、一人でも多くの人にその良さを知ってもらいたいと、次第に考え始めるようになります。

 

そんな時、当時設楽町の自営業者が集まるスモールビジネス研究会「ダラワークス」を知り、ご縁を求めて参加しました。

その集まりの中で、ある日講師が話題に話していたのが、2020年にスタートした特定地域づくり事業協同組合制度「特定地域づくり事業協同組合」の話でした。

特定地域づくり事業協同組合は、地域の様々な仕事を組み合わせて働く仕事を確保し、働き手を希望する企業へ派遣する、山間地など過疎の地域を元気にするための新しい雇用の仕組みの一つです。

 

最初はピンと来なかった話も、先行事例となる地域や実際の運営者の方々の話を聞くうち、「面白いかも!」というワクワクが生まれてきます。

これまでに出会った移住者には、何か自分でやりたいという目的がある方が多かったからです。

移住者のお手伝いができたり、移住を迷っている方々に安定した収入を得ながら理想のライフスタイルを提案したりすることができる活動が出来そうだと考えました。

「教師を目指した頃を思い出しました。先輩教師から、先生のおかげでできたと生徒に思われているうちは半人前の教師で、生徒が自分の力でできたと実感できるようなサポートができれば一人前の教師だと教わり、影で支える黒子としての姿が、僕の描く教師像と重なりました。教育から距離を置いたはずなのに、巡り巡って戻ってきているのを感じました」

 

そこから先に、迷いはありませんでした。

地域の事業所や行政、関連機関との調整や話し合いを何度も行い、2022年ついに愛知県に初となる、特定地域づくり協同組合「したらワークス協同組合」を設立、清水さんは、事務局長として就任します。

ワーカーの応募者からも徐々に連絡が入るようになり、地域へ根付いた生活を送るワーカーたちが自立して就職し、卒業する姿を見守ってきました。

「誰かの人生の、大切な一部に触れているのを感じます」と、やりがいについて話されました。

これまでの活動から、清水さんの仕事観に新たな価値観や働き方を深めることとなり、今後はデザイン業を続けながら、湧水を使った米や野菜の栽培、川釣りや水辺の廃校を使った音楽フェスの開催など、水源地のある設楽町ならではの暮らしを満喫していきたい夢があるのだそうです。

 

教育現場での熱意ある闘い、燃え尽き経験、そして新たな地域での再出発。

 

清水さんのこれまでの生き方には、どれも全て、「設楽町の美しく清らかな水のように、悩むひとにそっと寄り添う黒子のような存在でありたい」と願う軸が感じられるものでした。

 

東三河という地で、清水さんはこれからも自身の経験を語りながら、地域に貢献し、歩み続けていくことでしょう。

 

したらワークス協同組合 事務局

〒441-2221 

愛知県北設楽郡設楽町田峯字下畑9(旧田峯小学校内)

 

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白井美里(しらい・みさと)

西尾市出身、35歳。現在、「言ノ葉工房」の屋号で、ライター、クリエーティブディレクター、採用代行をしている。文章制作やコンテンツの企画を中心に活躍中。趣味は温泉めぐり。

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