東三河エリアを拠点に、農業の新たな可能性を切り開こうとする学生がいる。静岡県立農林環境専門職大学3年の佐々木汰一さんだ。「若者がもっと農業に興味を持てる世界にしたい」。その熱い思いを胸に、学生団体「学生のミカタ」を立ち上げ、イベント企画や起業プログラムへの挑戦を続ける活動を紹介する。
島根県出身で、実家は柿の兼業農家。高校時代から農業志し、専門的に学ぶため静岡の大学へ進学した。活動の原点は、ある「悔しさ」だったという。 「高校時代から『将来は農業を継ぎたい』と周りに話していました。でも、その反応は『偉いね』というものが多かった。僕にとっては最高に面白いことなのに、なぜか特別なこと、自分とは関係ないこととして捉えられてしまう。その距離感がすごく悔しかったんです」
この経験から、「自分と同じように農業にワクワクする仲間を増やしたい」という思いが芽生えた。そして、学生団体「学生のミカタ」を設立。豊橋市のエムキャンパスで、新規就農者と学生が事業課題の解決策をともに考えるイベント「種まきトーク会」を開催するなど、若者と農業の接点を創出してきた。
「活動をやっていて良かったと思うのは、参加した学生同士が新たにつながり、情報交換する場を生み出せたとき。大学や普段の生活では出会えなかった人との交流が、新しい価値を生むと信じています」と語る。
しかし、その道のりは平坦ではない。最も困難なのは、活動に共感してくれる仲間を集めることだという。「何か新しいことを始めたいという学生は、まだマイノリティーです。そのうえ、テーマが『農業』となると、さらに少なくなる。仲間集めの難しさは常に感じています」
そんな彼が見据えるのは、農業界の「革命」だ。「『農業で起業するなんてすごいね』という言葉の意味を変えたいんです」。 今の「すごい」は、誰もやらないことに取り組む「偉い」というニュアンスに近い。目指すのは、誰もが「自分もやってみたい」と憧れる人に向けられるような「すごい」だ。
「農業が、憧れの対象になったら業界全体、いや世界に革命が起きるはずです」。今後の目標は、ただ農家を継ぐことではない。卒業後は実家に戻り、事業として農業を発展させ、若者を「雇用」できる規模にまで成長させることだ。「これからの時代、農業はもっと注目されるはず。起業家だけでなく、雇用という形で多様な人が農業に関われるようになれば、他の産業と肩を並べられる業界になれる」
農業を、誰もが憧れる「カッコいい」業界へ。佐々木さんの熱い挑戦は、東三河の地から、日本の農業の未来を明るく照らし始めている。
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Lirem創業者。2000年1月11日生まれ。山口県宇部市出身。2020年3月、宇部工業高等専門学校を卒業、同年4月、豊橋技術科学大学3年で編入、在学中の2021年10月にLiremを設立して代表取締役に就任。現在は起業家支援事業や事業会社のイノベーション促進に向けた研修プログラムを提供する。「火―Okoshi」も運営する。
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