女子実業団王者を決める「クイーンズ駅伝」(23日、仙台市)に豊橋市出身の伊澤菜々花選手(34)=スターツ=が出場する。2021年に一度は競技を離れ、昨年戻ってきた。もう一度走ることを選んだ理由を取材した。
豊川高校時代に全国高校駅伝で3年連続区間賞。順天堂大学に進学後、13年の全日本女子駅伝で区間賞を獲得し、将来を嘱望されていた。だが、実業団時代は低迷。入社すぐの疲労骨折で1年間走れず、復帰後も思うような結果が出なかった。「自分はもう終わった選手なんじゃないか」。そう思うたび、走るのが怖くなっていった。
「マラソンで結果を出したい」。その信念だけが伊澤選手を支えていた。だが、海外挑戦を志して臨んだ「シカゴマラソン」で、目標の2時間30分切りには遠く及ばなかった。結果を出すと約束して送り出してくれた会社の信頼を裏切ったという思いから「もう甘えるわけにはいけない」と30歳で引退を決意した。
その後、順天堂大学大学院に進学し、陸上競技部(女子中長距離)のコーチを務めた。「最初は学生が頑張る姿を見るだけで十分だと思っていた」という。しかし7月初旬、トラックを走る学生の笑顔を見るうちに「走るっていいな」という思いが芽生えた。
「ここでやらなかったら一生後悔する」とチーム首脳陣に相談すると「走りたいなら走ってみればいい」と背中を押された。学生と一緒に練習を再開した。
昨年4月、スターツ陸上競技部に入部。「世界で日の丸をつけて戦いたい」と弘山勉監督に宣言した。再出発は平坦な道のりではなかった。入部後2週間で肉離れ。7月まで本格的な練習はできず、チームの中でも最後尾を走る日々が続いた。「また駄目なんじゃないかと思う時もあった」が、諦めなかった。7月頃から少しずつ練習量を増やし、秋には5000㍍で12年ぶりの自己記録を更新。さらに1万㍍、ハーフマラソンでも自己記録を塗り替え、復帰半年で驚異の成長を遂げた。弘山監督は「引退前よりも強くなっている」と太鼓判を押す。
今年1月、大阪国際女子マラソン。「優勝と2時間19分台」と高い目標を掲げ、先頭集団を走った。だがレース後半、体が急激に動かなくなる。最後は意識が遠のくほどの極限状態でゴールした。記録は2時間29分28秒、8位。伊澤選手は「優勝を目指していたので悔しい。でも、足りなかったものがはっきりした」と前を向いた。
復帰2年目は好調を維持する。6月のホクレン深川大会では5000㍍を15分16秒70の自己新、7月の日本選手権は5000㍍で6位。9月の全日本実業団陸上でも日本人1位の5位入賞を果たした。「マラソンもスピードがないと戦えない。トラックでスピードを磨いてきた」と手応えを話す。
伊澤選手はキャプテンとして若手の多いチームをまとめ、練習を引っ張る。「まずは自分が結果を出す。それを見て仲間がついてきてほしい」と話す。クイーンズ駅伝の出場権を争う「プリンセス駅伝」では3区を走り、区間賞の13人抜きでチームは一時首位に立った。最終的には2位を死守し、本大会の切符を手にした。
個人目標は「マラソン2時間19秒台」、そして日の丸をつけて戦うこと。現在フォームの改造中。「着地の時に腰が落ちる癖がある。より効率的な走りを目指し、股関節の動きを修正している」と明かした。環境に甘えず、自分のために、チームのために走る。
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