デカセギの子ども×先生 -ある定時制高校の現場から㊤

2017/03/31 00:01(公開)
溶接の実習で技術向上に励むリュウジさん=豊橋工業高校で
「日本でずっと働きたい」

 午後6時、給食を食べ終え、作業服に着替えた県立豊橋工業高校定時制機械科2年の32人が実習室へと集まってきた。
 教員は就職へ向け、生徒の身だしなみを細かくチェック。ボタンを全て止めているか、ピアスやアクセサリーは身につけていないか。集合時間にも厳しく、あいさつを何度もやり直しさせる。
 多くの外国籍生徒の中で、静かに教員の話に耳を傾けるフィリピン人の渡部リュウジさん(18)=豊橋市牟呂町=の姿があった。
 リュウジさんは小学校の6年間を日本で過ごし、一時帰国。フィリピンでは学校に通うことはなかった。
 中学3年の終わりに再来日し、豊橋市内の学校へ転校。3年間のブランクは埋められるわけもなく、卒業後は派遣社員として工場で働き始めた。当時、母親は弟を妊娠しており、「派遣社員の父親を少しでも助けたかった」。
 リュウジさんは授業後、24時間営業のスーパーマーケットで朝まで働く。「学校も職場の人も優しく、学校がこんなに楽しいとは思わなかった」と笑顔を見せる。中学で0点だった数学も今は「1から教えてもらえて初めて楽しいと思えた」。 
 リュウジさんのように大事な進路選択の時期に親の都合で日本へ来た子どもの中には、必要な語学力が十分に習得できないまま入学してくる子もいる。
 中学3年でペルーから来日した2年の大石ブランコさん(17)=浜松市=は週2回ほど、授業前に県が派遣する外国人生徒等教育支援員から日本語の補習を受け、小学3年程度の漢字を繰り返し勉強する。
 来日後、外国人児童・生徒の就学促進事業「虹の架け橋教室」を受講。作文と面接でなんとか合格したものの、古文など国語に苦戦する。
 「日本でずっと働きたい。日本語を話せるようになって溶接の仕事に就きたい」と話すが、両親がいつ帰国するか分からない中で先行きは不透明だ。
 生徒以上に教員らを悩ませるのは両親。学費の滞納を続ける親とは言葉が通じず、日本の教育システムへの理解も低い。支払うよう説明するため本多芳隆教頭のタブレット端末には「ポルトガル語」の翻訳アプリが入っている。「滞納しているから生徒を退学にすることが教育と言えますか」と苦しい胸の内を明かす。
 高校進学が当然のような日本で「定時制は最後の砦」。その考えは生徒以上に教員たちに強い。中退率は県内の定時制高校約12%のところ、同校は5%ほど。
 本多教頭は「今は求人も多い。だが、不景気になれば企業は成績ではなく、コミュニケーション力を見る。社会性のある人間を育てないと選ばれない」と話す。
 幾重もの困難を背負い、15歳の春、入学してくる生徒たち。寄り添い続ける教員たちと共に不透明な未来でも自分の足で立とうとしている。


 経済的困難、ひとり親家庭、不登校、さまざまな事情を抱えながら豊橋工業定時制に通う生徒たちの中に、外国人の姿がある。必要とされる支援が日本人以上に不十分な彼らは、明確な未来が描けないまま入学し、教員らとの交流を通じて人生を切り開こうとしている。
(飯塚雪)
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