盆を迎え、東三河の各地で故人の霊を慰める関連行事が盛んだ。かつては各地域に伝わった「大念仏」もその一つ。明治時代から徐々に廃れ、1960年代頃になると後継者不足もあり相次いで休止した。一方、有志で伝統行事を復活させ、地域ぐるみで保存に取り組む地区もある。
初盆を迎えた家庭を巡り、太鼓や鉦(かね)の音に合わせて念仏や歌枕を唱える。首に下げた太鼓をたたき、時には飛び跳ねる。東三河は遠州や関西の影響が強いとされ、放下芸者の踊りなどを取り入れて複雑に変化してきた。
田原市豊島町の「豊島大念仏」は、市内に残る唯一の行事として市の無形民俗文化財に指定される。1986年を最後にいったん休止したが、地元有志らで保存会を立ち上げ、2004年に復活させた。今夏は復活20年目の節目を迎えた。
今年も8月13日の夕方に初盆の世帯を寺や集会所に招いた。
豊島大念仏は、子どもらが花笠の端を床に付けて回すしぐさが特徴的とされる。参加するのは市立田原東部小学校の6年生だ。今年は町内在住の20人が参加し、夏休みを利用して花笠や太鼓などを練習した。
保存会員は立ち上げメンバーを含め約20人。復活から20年で、小学生時代の経験を生かして指導者で残る中高生や学生らもいる。保存会では後継者を絶やさないよう、小学校とも連携。学芸会の演目として披露するなどして継承を図る。
指導者で保存会の立ち上げにも関わった高橋邦行さん(69)は「20年の節目を迎えられてうれしい。教育委員会や学校の協力で伝統文化を受け継ぐ環境も整った」と喜んだ。
豊橋市内で現存する大念仏は嵩山町の「嵩山大念仏」だけとなった。かつては牟呂や石巻本町など各地にあったが、同じく後継者不足などを理由に廃れてしまった。
嵩山大念仏も1995年に一時休止に追い込まれたが、2007年に地元有志の指導で復活。09年度には市から採択を受けた「伝統芸能後継者育成事業」での保存活動が始まった。
今夏は台風7号の接近で15日に予定した行事は中止された。新型コロナウイルス禍などの影響で5年ぶりの開催が期待されたが持ち越された。保存会の坂本明大会長(76)は「今年こそは披露したかった」と悔しそうだった。
今後の課題は担い手不足という坂本会長。「中高生らの応募が減っている。受験勉強や部活動との両立、進学後の参加も障壁になりやすい。古くから伝わる伝統文化なので絶やしたくない」と新たな対策の必要性を説いた。
【加藤広宣、北川壱暉】
「嵩山大念仏」=嵩山町で(提供、過去開催の行事から)