物価高で田原の農家の悲鳴

2023/09/09 00:00(公開)
1月の産地招聘で交流する参加者=田原市内で(提供)
高価格化へJA愛知みなみがバイヤー招いたイベント

 物価高騰が農家の経営を圧迫している。東三河の多くの農家が、市場で自ら価格を決められない弱い立場にある。田原市のJA愛知みなみは、市場関係者と直接交渉する機会を設けた。高価格化につなげようとネット直販に可能性を求める農家も増えつつある。
 同JAによると、促成トマトの売価に占める経費率はこの20年で13%増えた。市内でトマトを栽培する山本効さんは「肥料や燃料などのコストは増え続ける一方、売り値は変わらない。利益は徐々に減り続けている」と頭を抱える。
 コスト高に苦しむ農家を支えようと、同JAは価格動向の鍵を握るバイヤーらを産地に迎え、農家の実情を紹介するイベント「産地招聘(しょうへい)」を始めた。互いに交流を深め、農家を苦しめるコスト高への理解を促すためだ。
 これまでブロッコリーやカリフラワー、ミニトマトなどを題材に計3回開いた。新型コロナウイルス禍で産地を訪れる機会が減り、バイヤーからも「農家の生の声が聴けた」と好評だ。販売促進のヒントをつかむ農家もいたという。
 農産物価格は天候やブームに左右される。変動リスクを分散させて価格安定につなげようと、JAは卸売業者と通年の価格契約を結ぶこともある。安く仕入れたい卸売に対し、付加価値を売価に上乗せしたい農家の立場でJAが価格交渉する。
 青果販売課の鈴木智さんは「農家と卸売業者との板挟みだが、両者が納得できる取引や理解ある業者の発掘につなげたい」と話す。
 今秋には大玉トマトのバイヤー向けに産地招聘を開く予定だ。

小川さんはトマトの「うま味」で勝負

 中山町でミニトマト農家「渥美半島とまとランド」を営む小川浩康さんは農産物の新たな特色を生かした戦略を練る。トマトの持つ「うま味」を新たな付加価値とし、独自の販路開拓や高価格化につなげたい考えだ。
 これまでトマトは「糖度」が付加価値の指標だった。小川さんの手掛けるブランド「あつみちゃんトマト」は味が濃厚でうま味が強いのが特徴だ。
 ミニトマトに含まれる「グルタミン酸」は加熱するとうま味が1・7倍に増えるという研究があり、加熱調理に適しているという。従来の生食では消費量に限界があるが、食品加工業業者や飲食店向けに販路を広げる戦略に打って出る。
 山形県新庄市の福原鮮魚店とコラボした冷凍食品「あつみちゃんトマトたっぷり~魚屋さんのパエリア&アクアパッツァ」が2021年3月、「にっぽんの宝物JAPANグランプリ」の「肉・海産物調理/加工部門」でグランプリを獲得した。こうした事例を飲食店などへの売り込み材料としたい考えだ。さらに、生産者と消費者の接点をつくろうとSNSで情報発信し、19年にネット販売を始めた。
 小川さんは「調理してもおいしい食材の良さを消費者に広めたい。生食以外の販路を開拓し、儲かる農業へ変わる見本になりたい」と意気込む。
【北川壱暉】
あつみちゃんトマトを育てる小川さん(2022年撮影)
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