【夏の甲子園’25】同好会3人でスタートした豊橋中央野球部 初代監督の樋口教諭ら感無量

2025/08/07 00:00(公開)
高校時代を回想する岩井さん、奥瀬さん、樋口教諭(右から)

 豊橋中央が創部23年で初の甲子園出場を決めた。「本当に、ここまで来たのか」。涙を浮かべたのは、野球同好会を立ち上げた県立蒲郡高校の樋口靖晃教諭(53)、そして創設期の元部員たちだった。

 

「野球やらないか」 3人で始めた同校会

 

 豊橋中央高校が豊橋女子高校から校名変更し、共学化したのは1997年。教職に就いた樋口教諭はすぐに野球部創設活動を始めた。学生時代は野球をしており「いつか甲子園で監督を」という憧れもあった。必要な予算も場所もなかった。毎年、野球部創部願を提出したが通らなかった。転機は2002年3月。校外に大山グラウンドができる話が持ち上がる。ウナギの養殖場跡で整備が必要だったが「同好会なら」と許可が下りた。

 

 「野球やらないか」。同年4月、樋口教諭は新入生に声をかけ、野球同好会を立ち上げた。活動説明会が開かれた視聴覚室には、当時1年だった岩井利全さん(38)と奥瀬佳孝さん(39)の2人。同じクラスで野球経験もあった。2人は野球を続けるつもりはなかったが「立ち上げから関われる機会はめったにないし、野球が好きだった」と入部を決めた。「これからどう活動しようか」。3人での話し合いから同好会は始まった。

 

 周囲からは「同好会なんてお気軽な」と陰口も。それでも3人は「いつか野球の試合を」と信じ、校内の鍵田グラウンドでキャッチボールをしたり、防球ネットや部室のない大山グラウンドで草取りや石拾いなどの整備を手伝ったりした。

 

 だが、試合には人が足りない。行動しかなかった。樋口教諭は休日に野球部のある中学校を訪ね「同好会が発足し、来年創部に向けて準備をしています」と伝えた。その努力は実を結び、翌年春に新入生に取ったアンケートで23人が入部を希望。同好会から「野球部」に昇格が決まった。

 

一度は野球をやめるも・・・樋口教諭に「もう一回やってみたい」と直訴

 

 2人は一度野球をやめた。もしも自分たちより上手な1年生がいたらレギュラーになれないかもしれない。そんな不安もあった。4月になると、23人の1年生が入部した。校内では、丸刈りで大声であいさつする新入部員の姿。雰囲気は一変し「強いチームをつくる」と意気込む新入生が新しくなったグラウンドで練習に打ち込んでいた。

 

 新年度が始まってすぐ、樋口教諭に電話が入る。岩井さんからだった。春の大会をテレビで見て、白球を追う選手たちに自分の姿を重ね合わせ、野球をやめたのを後悔していた。「やっぱりもう一度やりたい」。奥瀬さんも同じ気持ちだった。2人は職員室にも何度も足を運んだ。樋口教諭はしばらく黙った後、「わかった。もう一回チャンスをやろう」と再入部を認めた。

23年前、大山グランドで練習する岩井さん(中央)と奥瀬さん(左)

 

夏初勝利に胴上げ

 

 チーム初の練習試合は5月上旬の豊橋西戦。サインも決まっておらず、樋口教諭は「2桁失点のぼろ負けだった」と懐かしむ。夏の県大会でも初戦敗退。それでも「全力疾走」は欠かさなかった。

 

 夏の公式戦初勝利は創部2年目。夏の県大会初戦で名古屋工業相手に最終回、下級生がスクイズを決めてサヨナラ勝ち。樋口教諭は「スクイズのサインを出す時、決まったら初勝利だと思うとゾクゾクした」という。試合後、下級生が岩井さんら上級生を胴上げ。樋口教諭は「初戦で胴上げは聞いたことないが、本当にうれしかった」。

当時の豊橋中央野球部

念願の甲子園切符に、かつての仲間も涙「岩井、奥瀬がいたからこそ」

 

 あれから23年。樋口教諭は18年に退任し、コーチだった萩本将光監督に甲子園の夢を託した。高校卒業後、岩井さんは市内で、奥瀬さんは湖西市内で職に就いた。そして今夏、同校は愛知大会を制した。球場に駆けつけた樋口教諭は「周りの人たちが応援したくなる雰囲気だった。勝った瞬間、ガッツポーズし教え子たちと握手した」と話す。岩井さんはテレビ越しに校歌を聞き「校歌をここで聞けるかと思うとぐっときた」と声を震わせた。甲子園に挑む部員に奥瀬さんは「思いっきり楽しんで」とエールを送った。

 

「同好会の岩井、奥瀬がいてくれたから、今がある」。礎を築いた日々と生徒たちとの時間こそが、「豊橋中央野球部」の原点である

続きを読む

購読残数: / 本

この記事は登録会員限定です
この記事は有料購読者限定記事です。
別途お申し込みをお勧めします。

北川壱暉

 1998年浜松市生まれ。昔からの夢だった新聞記者の夢を叶えるために、2023年に入社した。同年からスポーツと警察を担当。最近は高校野球で泥だらけの球児を追いかけている。雨森たきびさん(作家)や佐野妙さん(漫画家)らを取り上げた「東三河のサブカルチャー」の連載を企画した。読者の皆さんがあっと驚くような記事を書けるように日々奮闘している。趣味はプロ野球観戦で大の中日ファン。

最新記事

日付で探す

蒲郡信用金庫 住まいLOVE不動産 虹の森 藤城建設 さわらび会 光生会
hadato 肌を知る。キレイが分かる。 豊橋法律事務所 ザ・スタイルディクショナリー 全国郷土紙連合 穂の国