昨季まで豊橋中央の主将だった前島史弥さん（18）は、豊橋中央が東邦に勝ち、甲子園出場を決めた瞬間、観客席で拳を握りしめ「ついにやってくれた」と思った。

　野球を始めたのは小学校１年の時。夏は家族や友人と甲子園中継をテレビで見るのが恒例で「自分もこの舞台に」と憧れるようになった。中学時代は愛知豊橋ボーイズに在籍。萩本将光監督にと誘われ豊橋中央に入学した。

　抜群の制球力を武器に２年から頭角を現し、秋からは主戦に。夏は４人の好投手がそろい、４回戦まで勝ち上がった。だが５回戦に正捕手の松井蓮太朗選手が飛球を追う際に三塁手とぶつかり、右足首を骨折。戦線離脱を余儀なくされた。準々決勝の杜若戦ではバッテリーミスが目立ち序盤に大量失点。打線も振るわず、３対８で敗退。前島さんの夏は終わった。

　試合後、当時右翼手で先発出場していた髙橋大喜地選手や松井選手らは球場の外で「すみません」と言いながら涙を流した。前島さんは「来年頼んだぞ」と強く抱きしめ、後輩たちに託した。

　「絶対に県制覇だ」。後輩たちの戦いが始まった。制球力や変化球の精度に課題を抱えていた髙橋選手に、前島さんは自分の技術を教えた。高橋選手の決め球の一つ、スライダーを教えたのも前島さん。髙橋選手から昨冬「もっと手元で曲がる球が欲しい」と相談され、握り方を伝授した。２人は中学からのチームメート。前島さんは「普段はおちゃらけて怒られることもあるが、教えたことをすぐ吸収するし、何よりメンタルが強い」と一目置く。高橋選手も「見守ってくれるお兄さんのような存在」と慕う。

　前島さんが「一番うれしかった」と語るのが準々決勝の杜若戦。同点で迎えた八回に一挙５点を挙げ、６対１で圧勝した。「萩本監督の１点１点を高い集中力で取りに行く野球ができていた。あれが中央野球の真骨頂だし、昨夏の借りを返してくれて頼もしかった」と喜んだ。そして決勝。髙橋選手が１４９球の熱投で甲子園の切符を手にした。「昨秋から比べるとものすごく成長し、勝負できる投手になった」とたたえた。

　初戦を控えた後輩に「甲子園でも自分たちの野球を貫いてほしい。きついと思うけど頑張って」とエールを送った。