農作物の獣害は年間約200億円に上る。特にイノシシや鹿の深刻な被害が続く新城市では、電気柵の設置や捕獲活動を続けているが被害はなくならない。豊橋市二川町のペット用品販売「トムキャット」狩猟部は、防獣用品を広めるプロジェクトチーム「わな道」を9月に立ち上げ、本格的な活動を開始する。物理的な防御やベテラン猟師の経験頼みの獣害対策だが、野生動物の鋭い嗅覚を利用する手法を取り入れ、誰でも使える誘引剤を展開していく。
県全体の鳥獣被害金額は2024年度に前年度比120%の5・77億円に達し、全国でも上位。新城市の被害額は約330万円(鹿174万円、イノシシ62万円など)に上り、設楽町、東栄町、豊根村を合わせると2366万10000円に達する。鹿は生息域を広げ、イノシシも冬を除くほぼ全ての時期に食害を起こすほか、農地周りのあぜや石垣を掘り崩すなどしているという。
昨年11月に同市であったシンポジウムでは、東栄町で鳥獣害対策を担う小川晴那さんが「捕獲するだけが対策ではない。人里に近づく鹿やイノシシ、熊など野生動物への関心を抱き、自分なりの考え方を持つようにすることが大事だ」などと野生動物を寄せつけないこと、地域ぐるみで対策することの重要性を説いている。
全国各地でプロジェクトチーム「わな道」が勧める誘引剤での獣害対策が行われている。その一つが宮崎県で「米ぬかでの誘引とは比べものにならない。とれる量が体感で数十倍違う」という。YouTubeチャンネルを運営し、宮崎県山間部で活動する猟師の大迫さんは驚きを隠さない。大迫さんが誘引剤を使用し、妻が一人で箱わなへ仕掛けに向かった翌週、イノシシの親子がかかっていた。別の日には一度に6頭を捕獲したという。
これまでは米ぬかを使っていたが、腐敗すると動物が寄り付かなくなる欠点があった。さらに米の味を覚えて田んぼを襲う危険もある。「わな道」の超速効型誘引剤は腐敗の心配がなく、ピーナッツやフルーツ系など動物の好む香りを凝縮している。箱わなにトウモロコシなどのえさを設置したうえで、獣道やわなの入り口に誘引剤をまくだけというシンプルさで、初心者でも成果を出せるようになっている。
もう一つの例が栃木県だ。渡良瀬遊水地でイノシシの急増が深刻な課題となっており、栃木、茨城、群馬、埼玉の4県でつくる協議会の調査では2023年度の確認数が834頭と、前年度(488頭)の約1・7倍に増えたという。
「わな道」のプロジェクトリーダーの戸﨑るいさんは、農家が育てた作物が一晩でなくなる様子を栃木県の猟師らから聞き「食べる側の私たちが他人事にしてはいけない。特定の誰かに頼らなくていい仕組みを」と願っている。人と獣のすみ分けを促し、次世代を導き、命を循環させる道標として「わな道」と名付けたという。
同県那珂川町でもイノシシや鹿、ハクビシンなどの獣害が後を絶たない。ベテラン猟師の鈴木敏彦さん(79)は「田んぼが1㌶ほど全部やられてしまうこともある。電気柵を飛び越えて被害が出ている」と話す。鈴木さんは獣道を差し「こうやってやるのさ」と板ばね付きのわなをつけて見せた。その付近に誘引剤をまいて待つ。これまでは米ぬかを使っていたが、使ってみて、その簡単さに驚いたという。「獲物がかかったとき、それが誘引剤のおかげか、偶然通りかかったのかを科学的に判断するのは難しい」とこぼしたが、誘引剤の卸売りを担う鎌田スプリングの熊田哲さんも「50代以上のベテランにもリピートされており、手応えは確かにある」と語る。
「わな道」が勧める誘引剤は、専門家からも支持されており、教育現場でも使われている。狩猟学校「アニマルキーパーズカレッジ」講師で、静岡県河津町の体感型動物園「iZoo」飼育係長の渡部那智さんは、鹿の食害が深刻な南伊豆で誘引剤を長年活用している。「その香りは数百㍍先まで届く。ネットに入れて木につるして広範囲に拡散させ、動物が上を向いた隙に足元のわなへと誘導する技術を学生に教えています。これがこれからのわな猟のスタンダード」と語る。
この誘引剤について大学などと連携した実証実験をし、捕獲効率や誘導効果を客観的なデータとして蓄積する計画だ。「わな道」の戸﨑さんは「科学的な根拠を示すことで、行政や猟友会、地元ハンターとより深く連携し、地域を支援していきたい」と話す。その思いに応え、メンバーの一人はわな猟の免許を取得。トムキャット狩猟部は購入後もユーザーが孤立しないよう、電話やメールでの相談を受け付け、スタッフ自らが使い方を漫画で描いたマニュアルをサイトで公開するなど、現場に寄り添ったサポート体制を整えている。
戸﨑さんは「猟師、農家のそれぞれの視点に立ち、香りの強さと女性や高齢者でも扱いやすい手軽さをもっと伝え、獣害対策を地元、愛知県、全国へ広げていきたい」と抱負を語った。
「わな道」は、現場が抱える「とれない」「手間がかかる」という悩みを「においで誘導する」アプローチで解決を目指す。誘引剤は現場の状況に応じて使えるよう、粉末や液体のほか、さまざまなフレーバーがあり全5種をラインナップ。米ぬかのかびや清掃の手間に悩む人や、広範囲から獲物を素早く引き寄せたいハンターにお勧めだ。商品の購入や導入相談、効果的な組み合わせ方については公式ウェブサイトから受け付けている。
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1998年浜松市生まれ。昔からの夢だった新聞記者の夢を叶えるために、2023年に入社した。同年からスポーツと警察を担当。最近は高校野球で泥だらけの球児を追いかけている。雨森たきびさん(作家)や佐野妙さん(漫画家)らを取り上げた「東三河のサブカルチャー」の連載を企画した。読者の皆さんがあっと驚くような記事を書けるように日々奮闘している。趣味はプロ野球観戦で大の中日ファン。
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