NPO法人「ひとすじの会」(宮下孫太朗理事長)は、新型コロナウイルス拡大の影響で、7月から予定していた歴史群像劇「神野新田物語」第2話「開拓の時代」の公演を来夏に延期した。稽古ができなくなった出演者たちが10日、豊橋市大崎町の水田を舞台に代え、稲の苗を植えた。第2話のテーマ「明治・大正の米づくり」を役者たちが半年かけて再現する。当時の農民の生活を体感した役者たちの1年後の熱演に期待がかかる。
2018年に公演があった第1話は明治20年代の豊橋が舞台。開拓に着手した神野家の人々を核とする群像劇だ。人造石工法によって城壁のような大堤防を築いていく様子を、小学生から80代の人まで市民60人が熱演した。上演された穂の国劇場プラットには多くの人々が詰めかけるなど、好評だった。
第2話は脚本が完成、3月には6歳から85歳までの出演者約60人が決まっていた。役者陣はせりふを覚え、本来なら今頃は毎週末、猛稽古が続いているはずだった。しかし、コロナ禍ですべて中止に。「3密」を避けるために通し稽古もできず、上演が延期されることが決まった。
そこで、「ひとすじの会」は、時間が空いた役者たちのためにと、第2話のテーマとなる米づくりを実体験することを決定。大崎町境松の休耕田5㌃を借り上げ、秋に向けてコシヒカリの稲を育て、収穫することになった。今月3日には明治時代の木製のくわを使ってあぜを造った。
そしてこの日は午前から、舞台に出演する編笠にもんぺ姿の男女が一列になり、苗を植えていった。コロナ対策で、本来よりは少し、苗の間隔を空け、一時はマスクも着けた。慣れない仕事に時折、腰を伸ばしながらだったが、笑い声も起き、1時間以上かけて作業を終えた。
今後は大正時代の除草機を使っての草取りがある。秋になれば稲刈り、はさ架け、脱穀が続く。収穫した米は塩むすびにして、皆に振る舞う予定だ。水田の前には、「神野新田物語」をPRする看板の設置を検討しているという。
脚本を書いた杉浦博人さんも、作業着姿で水田に来ていた。調査をすればするほど、神野家の先見性と、当地の整備に果たした役割が浮き彫りになるという。杉浦さんは「この体験が、来年の舞台に生かせれば」と話す。来年のこの時期にも、田植えに挑戦する人が出ているという。宮下理事長も「来年はぜひ、舞台へ見にきてほしい」とPRした。
一方、ひとすじの会は現在、動画共有サイト「YouTube」で「神野新田物語」の第1話を公開中だ。会のチャンネル(https://www.youtube.com/channel/UCCtHf_QsdLoSyPT8_YiHs0w)から、全編を視聴できる。
劇をPRする杉浦さん
公開中の第1話(YouTubeから)