「観光振興を掲げる奥三河の今」
新型コロナウイルスの余波が続く中、観光振興を掲げてきた奥三河は今、自然を満喫したい観光客と段階的に外出自粛を緩和したい国の板挟みに苦しんでいる。
「行ってきます!」。道の駅「もっくる新城」(新城市八束穂)内にある奥三河観光案内所が5月27日、営業を再開した。この日、案内所を訪れた豊田市の70代女性は「日本の棚田百選」に選ばれる「四谷の千枚田」の情報を知るため案内所に立ち寄ったと話した。緊急事態宣言下の外出自粛期間中、田植えが終わって青々と色づく水田を見に行くのを楽しみにしていたという。
観光客が足取りも軽く向かう一方、案内所職員の顔は浮かない。来る人にマスク着用を義務付け、入り口には消毒液を設置するなど感染防止対策を徹底した。職員が「マスクの着用をお願いしております」と、入場を制する場面も見られた。今月5日現在も「3密」を避けるため午前11時半から午後1時半までは閉所している。
案内所に常駐する奥三河観光協議会の安彦誠一事務局長は「どこまで案内していいのか、基準が明確でないため、大変悩ましい。茶臼山のシバザクラが見頃を迎える良い時期。当面は県民の方を中心にしたい」と複雑な心境を語った。
豊根村の茶臼山高原は5月23日、一部利用制限を設けて営業を再開した。5月7日から開催予定だった「芝桜まつり」は新型コロナの影響で中止。ピンクや白のシバザクラ約40万株が見頃を迎える時期と休業期間が重なり、苦渋の決断となった。
手指消毒などの感染防止対策を講じた上で営業を再開したものの、5月31日と今月1日の雨でシバザクラのピークは過ぎ、4日現在で開花しているのは3割程度。今後は雑草を刈り取る作業に入るという。
茶臼山高原は「今シーズンは暖冬で客が半減したうえに、コロナで閉鎖となったため、売り上げは大幅に落ち込んだ」と肩を落とす。一方で「新たにバーベキュー場を造り直している。アメリカンなイメージにしたい。再び多くの観光客にお越しいただけるよう準備したい」と前を向いた。
また、奥三河を代表する観光資源「湯谷温泉」にも影響が出ている。旅館「はづ」若女将(おかみ)の加藤弘依さん(44)は「売り上げが大幅に下がり、打撃を受けた」と語る。
現在は、チェックイン時に検温するなどの感染防止対策をしている。訪れるのは尾張地方や浜松市からの観光客が中心だという。打開策として始めた2年間有効の「未来予約ギフト券」は好評で、約1カ月で約40件の予約があった。
加藤さんは、湯谷温泉について「泉質が大変良く、川沿いなので景色も同時に楽しめる」とアピールする。「県をまたぐ移動が可能になった際は、関東のお客さまも温泉につかって、コロナで疲れた心を癒やしてもらいたいです」
国は観光について、今月18日までは「県内で徐々に」、19日から7月末まで「県をまたぐものも含めて徐々に」、8月1日をめどに「全面解禁」と段階的に緩和する方針だ。
新緑に彩られた奥三河は、観光客を待ちわびながらも、大きな声では「ウェルカム!」と言えないでいる。
(木村裕貴)
開花は3割程となった茶臼山高原のシバザクラ(4日、提供)
湯谷温泉を楽しめる旅館「はづ木」=新城市豊岡で