寺社や神輿など日本古来の建築物を手掛ける堂宮大工。その一人で「望月工務店」(豊橋市下地町若宮)の望月成高社長が技術の継承のため、各種の建築賞へ相次いでエントリーした。「現場で見せているだけでは伝わらない」と、いわば「道場破り」のような形で審査を仰ぐ挑戦だったが、各賞を受賞し高い評価を得た。昨年12月26日には中部建築賞特別賞の授賞式が名古屋市であった。
エントリーしたのは、豊川市平尾町の星野神社の覆殿(おおいでん)新築と本殿改修復元事業▽豊川市篠束町で手掛けた注文住宅「不惑の一棟」の設計と建築-の二つ。
星野神社は中部建築賞のほかに、「JIA日本建築家協会 日本建築大賞 優秀建築賞2022」で優秀建築選(100選)に選ばれ、優秀賞作品候補の数点のうちの1点になっている。最終審査中。さらに「第30回愛知まちなみ建築賞」と「第6回あいち木づかい表彰」で審査中。
星野神社と「不惑」は「第8回ウッドデザイン賞2022」の建築空間分野で表彰された。星野神社は奨励賞(審査委員長賞)だった。両者は「第17回木の建築賞」の最終審査に残っている。「不惑」は「JIA第9回東海住宅建築賞」を受賞した。
星野神社本殿は豊川市指定有形文化財。「七間社、切妻造、こけらぶき」の建物で、七間社(正面の柱間が七つ)の神社は県内では岡崎市滝町の「日吉山王社本殿」にしかない構造だという。1641(寛永18)年に建てられた。覆殿(本殿を風雨から守るため、覆うように建てられた簡易な建物)があるのも珍しい。本殿との隙間がないほど密着して造られていたため、望月社長らが手作業で覆殿を解体、本殿の傷んだ部分を改修したうえで新築再建した。施工中は建築を学ぶ学生らの見学もあった。日本ウッドデザイン協会からは、伝統技術の継承、地域材利用による環境保全、伝統や文化の伝達を併せ持つ取り組みとして評価された。
「不惑の一棟」は、匠の技をデザインとして生かし、簡素で飾らない美しさを追求した木造住宅シリーズ。使う材料は寺社のように本物の天然素材にこだわる。SDGs(持続可能な開発目標)にも配慮し県産の木材を使った。壁はクロスや既製品塗り壁材は使用せず、左官職人と素材や配合を考え建物に合わせた独自の塗り仕上げにする。できるだけ金物に頼らない木組みは、正確で強固。現代科学の裏付けもある。
望月社長個人も今年度、県優秀技能者「あいちの名工」に認定されている。先代社長の父の指示で23歳から9年間、高浜市で宮大工の修業をしていたことが今の技術の根底にある。昔ながらの徒弟制度で鍛えられ、各地の社寺の修復や建て替えを手掛けた。
望月社長はコメントで「規矩術(木造建物の部材の形状全般をぶんまわし=コンパス=と、曲尺で作り出す手法)を使える大工は四半世紀で半分以下に。左官職人は半世紀で10分の1にまで減りました」などと指摘。「設計・建築家、林業、行政、実務の4者が手を携え、伝統技術を残す道を作ってほしい」と呼びかけている。
【山田一晶】