高校野球の夏の県予選。豊橋商業は20日、西尾に1対4で敗れた。目を真っ赤にしながらも、やり遂げたという表情を見せていたのが、エースで4番の北添兼矢主将だ。部の存続の危機を乗り越え、シード校を倒す快進撃の立役者だ。
北添の1年先輩の部員は1人。当時部長の田村知憲監督は「その1年後に部員が来なかったら、試合ができない状況だった」と振り返る。
北添の憧れの存在だった5歳上の兄が野球部主将だった。話を聞いたり、見学したりして、入部を考え始めていた。
その気持ちが強くなったのは、中学校の豊橋選抜チームでの経験。県予選敗退だったが「能力的にも人間的にも素晴らしい選手たちともう一度プレーしたい」と思った。進路が決まっていない選手に「豊商に来ないか」と誘った。
伊東徹之芯と中西柊満も声を掛けられた。2人は北添の普段の振る舞いやプレーを見て「兼矢となら上を目指せるかも」と、他の誘いを断って入部した。伊東は「野球に懸ける本気度が伝わってきた」と振り返る。中西は「投打ともに圧倒的な姿にひかれた」と話す。北添を含め11人が入部した。
新チーム発足後の秋の県大会は初戦敗退。だが昨秋の全三河大会に転機が訪れた。決勝で桜丘を10対7で下し、61年ぶりの優勝を果たした。「打撃戦で勝てたのは自信になった」と北添。
今大会は2回戦から登場し、名古屋国際、シードの中部春日丘に8対1でコールド勝ち。勢いに乗って西尾に挑んだが、一歩及ばなかった。試合後、北添は仲間たちに「ふがいない主将についてきてくれてありがとう」と声を掛けた。伊東は「誘ってくれなかったらここに立っていない」と言い、中西は「兼矢がいたからうまくいなかないことや、つらい練習も乗り越えられた」と感謝した。
田村監督は「北添はプレーだけでなく、塁審や掃除なども積極的にやるなどしてきた。新たな歴史をつくってくれた」とねぎらった。
【北川壱暉】
悔しい表情の北添(右から2人目)、中西(同3人目)と、タオルで目を覆う伊東