RHYMESTER宇多丸さん 約20年ぶりの豊橋 「文化のにおい」漂う街

2026/03/06 06:00(公開)
宇多丸さん
宇多丸さん

 ヒップホップグループ「RHYMESTER」のメンバーで、映画評論家としても支持を集める宇多丸さんが1月、新旧の名作映画を上映する「とよはしまちなかスロータウン映画祭」のため豊橋市を訪れた。本紙のインタビューに応じ、街の印象から表現哲学、メディアとの向き合い方までを語った。

 

 豊橋市は約20年ぶり。「周りの人が豊橋に次々と行くのでこの街に何かあるのではないかと(笑い)。歴史ある街並みがすてきで、美しい場所だと思っていた」と喜ぶ。「水上ビルに行くのが楽しみ」と期待を寄せた。同市が舞台の映画「ちゃんと伝える」(園子温監督)の風景も記憶に深く、神社脇の分かれ道を「絶妙な舞台設定」と評価した。街に漂う文化のにおいに愛着を示した。

 

 映画との出合いは幼少期にさかのぼる。父と「七人の侍」に、母とホロコースト体験のドキュメンタリー映画「夜と霧」などの硬派な作品に触れ、「偏見がない状態をつくれた」と振り返る。

 

 ヒップホップとの出合いも映画がきっかけだ。10代後半、映画「星くず兄弟の伝説」に出演した高木完さんの動きに目を奪われた。「映画が好きではなかったら、たどり着いていたか分からない」と語る。歌詞にも映画的描写が頻繁に登場し、二つの活動は密接にリンクしている。

 

 映画評論では自らチケットを買うスタイルを貫く。「プロが避ける手間をかけることで、なんとかやっている」と笑うが、そこには確かな信念がある。1回目は純粋に楽しみ、2回目で「なぜ心が動いたのか」を検証する。吹き替え版と字幕版を見比べたり、上映館を変えて観賞したりすることもあるそうだ。「劇場の暗闇で大画面と音響に身体をゆだねる体験こそが、映画という総合芸術」と言い切る。

 

 長年続けているラジオの魅力を「話し手の熱量から本気度が伝わる」と語る一方、SNSには慎重だ。「良くも悪くもとがっている。自分はラジオという場があるからアカウントは持たない」と明かす。

 

 50代半ばを迎え、表現手法も変化した。「若い頃のように言い放つことができなくなった」という。それは「丸くなった」のではなく「視点の成長」だ。知識を深めるほど自らの無知を知る。「多少口ごもるくらいがちょうどいい」と話す。

 

 戦争や政治、性などのタブーに切り込み、少数派に寄り添う表現を続ける理由について「アート表現とは、放っておけば忘れられ、隠されるものを救い上げること。それが役目だ。陰には確実に負けた人や、思うように生きられない人が大勢いる。表現とは、そういう人たちのために、あるいはその時に感じたやり場のない気持ちのためにあるのだと思う」と結んだ。

スロータウン映画祭で韓国の話題作「密輸 1970」好評価

 

 宇多丸さんは映画祭のトークセッションで韓国映画の話題作「密輸 1970」を評論した。

 

「密輸 1970」は、1970年代半ばの韓国の漁村を舞台に、生活苦に陥った海女たちの再起をかけた大仕事を描く実話に基づいた物語だ。作品を手掛けたリュ・スンワン監督について「社会派のテーマとエンターテインメントを融合させる手腕が圧倒的」と評価した。

 

 特に観客をうならせたのは、映像表現に関する細かな指摘だ。劇中、舞台がソウルへと移る場面で、画面の横幅が広がる演出に言及し、「ビスタサイズからスコープサイズに広がることで、いよいよ本題が始まるという高揚感と解放感を視覚的に表現している」と解説した。また、女性キャラクターの力関係が逆転していく構成や、70年代の韓国歌謡を駆使した選曲センスを絶賛した。

 

 韓国映画界全体の質の高さについても議論は及んだ。宇多丸さんは自身が衝撃を受けたイ・チャンドン監督の「シークレット・サンシャイン」を例に挙げ、「『質が高い』という言葉では足りない別次元のレベルだった」と語った。「人材育成まで含め、映画産業に対する公的支援が手厚いことも大きい」と日本映画界が置かれた環境との違いにも触れた。

 

 

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北川壱暉

 1998年浜松市生まれ。昔からの夢だった新聞記者の夢を叶えるために、2023年に入社した。同年からスポーツと警察を担当。最近は高校野球で泥だらけの球児を追いかけている。雨森たきびさん(作家)や佐野妙さん(漫画家)らを取り上げた「東三河のサブカルチャー」の連載を企画した。読者の皆さんがあっと驚くような記事を書けるように日々奮闘している。趣味はプロ野球観戦で大の中日ファン。

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