少子化が進む中、経営や経済の立て直しのために、外国人が労働力として注目を集めている。外国人は、日本人の代替にとどまらない。外国語能力や異なる価値観、母国のSNSを通じた求人や商品の発信などは経営の武器になる。
2024年3月の閣議決定により、技能実習制度の廃止が決まり、27年から新たに育成就労制度が始まる。出入国在留管理庁のウェブサイトなどから情報を収集し、一足早く受け入れ準備を進めれば、有能な外国人を雇用する好機となる。
受け入れ準備にあたっては「ビジネスと人権」の観点から、企業も外国人の人権尊重という法令順守(コンプライアンス)が求められる。
国際法上は、外国人の人権保障は十分ではなく、最恵国待遇(外国人間の平等)と内国民待遇(日本人との平等)のほか、基本的人権の尊重などが抽象的に認められるにとどまる。
1990年には移住労働者権利条約が採択されたが、不法滞在者の権利保障などが含まれており、日本を含む先進国は批准していない。
国連人権理事会には「普遍的定期審査(UPR)」という人権状況の改善手続きがある。国連加盟国は4~5年に一度、他の加盟国による人権状況に関する勧告に対し、説明責任を果たさなければならない。2023年の審査で、日本は115カ国から300の勧告を受けた。
日本は、移住労働者の保護強化と技能実習制度の監督確保に関するスリランカの勧告と、送り出し当局との協力を通じた外国人労働者の適切な労働、生活条件の保証強化に関するタイの勧告を真摯(しんし)に受け入れる姿勢を示している。
実際に外国人を雇用する企業には、待遇改善の実働部隊となることが求められる。
外国人が日本で働くには、出入国管理および難民認定法(入管法)に基づく就労可能な在留資格が必要となる。
1990年には、ルーツ探しなどを目的とした日系人の受け入れが始まり、日系ブラジル人やペルー人が、中京工業地帯を有する東海地方に多く移り住んだ。
2018年には日系4世の一部受入れが始まり、23年に一定の要件を満たせば、原則就労に制限のない定住者の資格が付与されることとなった。
並行して、1993年には、途上国への技術供与を目的とした技能実習生の受け入れが始まった。しかし、日系人も技能実習生も、内実は日本の労働力不足への対応が目的で、外国人が増えすぎないためのからくりといえる。
この本音と建前の乖離(かいり)を改善するため、2018年には人材確保を目的として明示した「特定技能」制度が始まった。さらに昨年、27年以降の育成就労制度の開始と、技能実習制度の廃止が決まった。
特定技能は農業や建設業、自動車整備など特に労働力不足とされる12業種について、一定の技術を有する外国人に認められる就労資格である。
特定技能2号は、1号に比べ高水準の技術と日本語能力が求められる一方、長い在留期間と家族の帯同が認められる。
受け入れ企業は1号の外国人を雇う際、空港送迎▽銀行口座開設補助▽日本語学習▽相談窓口設置等の支援-が義務づけられる。
また、送り出し国との二国間協力覚書に基づく義務があり、例えばベトナム人については、母国の認定送り出し機関を通じた採用が必須となる。
このように、在留資格や国籍に応じた個別の待遇が必要となるため、企業の負担は小さくない。そのため、現状では技能実習生のみを雇用し続ける企業も少なくない。
「育成就労」は特定技能人材の育成と人材確保をともに目的とする。詳細は、今夏以降に主務省令で定められる予定であるが、特定技能以上の待遇付与が企業に求められることが予想される。
この負担は、むしろビジネスチャンスととらえられる。ハローワークなどに相談しつつ、早めに先行投資たる受け入れ準備を整えることで、他企業に一歩リードした雇用戦略を進めたい。
しかし、母国の経済発展により、中国人労働者は日本を離れ、ベトナム人もいずれ離れると考えられる。
最近増えている南、中央アジアの外国人についても、難しい日本語が不要な母国で働いた方が効率的と感じる時代が到来するかもしれない。
他方で、愛知県は東京都に次ぎ全国2位、豊橋市は名古屋市に次いで県内2位の外国人数を誇るため、近隣に競合企業が多い。
韓国や台湾も外国人労働者に好待遇を示している中、有能な外国人の確保は、多くの企業にとって重要課題となりうる。
外国人に選ばれるためには法令上の待遇だけでなく、国民性を理解した就労環境を提供すべきであろう。
例えば、ブラジル人はサンバの陽気なイメージが強いが、家族のあたたかさや郷愁を含むサウダージという精神性を有する。
家族への配慮は多くのブラジル人にとって魅力的に映る。事前にすべてを理解することは難しいが、交流を深める中で、文化や宗教等を汲んだ多文化共生の職場づくりが進められる。
労働力不足への対応は、外国人のみに頼る必要はない。先の連載で記した障害者や性的少数者のほか、主婦や高齢者、AI(人工知能)、ロボットなども有能な働き手となりうる。自社の特性に応じた適材適所の雇用戦略が重要となろう。
尋木真也(たずのき・しんや)
熊本県出身。2005年3月、早稲田大学政治経済学部政治学科卒。08年3月に早大院法学研究科修士課程を修了。15年4月、愛知学院大学法学部の専任講師。20年2月から現職。専門は国際法と国際人道法、安全保障法
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