豊橋市は、動物愛護センター「あいくる」で使う医療機器などの購入に充てるとして、ふるさと納税を活用したガバメントクラウドファンディング(GCF)を始める。目標金額は500万円で、5日から来年3月4日まで。だが、東三河の動物福祉団体「命にやさしいまちづくり ハーツ」がこれに反発している。ハーツも例年、12月中旬からCFを実施しているが時期が完全に重複し、「官」が「民」の活動を圧迫する事態となっている。
ハーツは12月17日から翌年2月14日までの期間、CFを実施する予定だ。この時期のハーツのCFは広く知られている。今年で10回目。CFによる浄財が、翌年1年間のシェルター(保護施設)にいる猫の医療費の一部に充てられる。何もかもが高騰する現在、貴重な命綱なのだ。
ところが豊橋市が3日、GCFを実施すると発表した。期間はハーツのキャンペーンより開始時期が市のほうが10日以上早く、終了は20日近く遅い。
GCFを事前に知ったハーツのメンバーが「市長への手紙」で「時期をずらしてほしい」と要望したが、市からの返事は「最も効果的な時期に実施することを考えています」などとあるだけだった。
ハーツ側が懸念するのは、圧倒的な条件の格差だ。市のGCFは「ふるさと納税」制度が適用されるため、寄付者は税控除が受けられる。一方、任意団体であるハーツへの寄付は税制優遇の対象外であり、純粋な善意に頼るほかない。
「動物を助けたい」という市民の思いは同じでも、税控除という強力なインセンティブを持つ市側に寄付が集中すれば、民間団体への支援は先細りする恐れが強い。自治体は広報力、信用力、税制優遇といった圧倒的なアドバンテージを持っている。
これを民間と同じフィールドの資金調達で活用することは「公」が「民」の活動を圧迫する形となり、活動の公正性を損なう。寄付者は「動物を助ける」という大義は同じだと捉えがちだ。GCFに寄付することで「もう資金は十分集まった」と誤認され、最も現場で活動している民間団体への支援の必要性が見過ごされてしまう恐れがある。CF関係者は「市が問題ないと思っているなら無責任だ。同じ地域で同じテーマで同じ時期に費用を募ることに影響がないはずはない」と指摘する。
資金の使途にも違いがある。市が集めた資金は、本来は一般財源(税金)で賄われるべきセンター収容動物の医薬品代などに充てられる。これに対してハーツは、行政の手が届かない傷病猫の医療費に使う。もしハーツの資金調達が失敗し、活動が縮小すれば、結果として不幸な猫がさらに増える。ひいては行政への苦情や殺処分リスクが増大するという本末転倒な事態を招きかねない。
飼い主のいない猫の問題解決には、行政と市民、ボランティアが協力しなければならない。だがそのボランティアの資金源を行政が脅かす構図となっている。時期の調整や連携策など、市側の配慮のなさが目立つ。
一方、豊川市は2019年度と22年度にGCFを実施。計727万円を集め、市民が猫の不妊去勢手術をする際の補助に充てた。しかし、竹本幸夫市長は23年12月、東愛知新聞社の取材に対し「GCFで市が資金を集めると、民間団体が活動資金を集めにくくなるとの指摘を受け、一般財源を使う方向で検討している。財源が変わっても切れ目なく支援できるようにしていく」と述べ、3回目のGCFはせずに一般財源化している。
豊橋市はGCF開始にあたり「寄付を通じて多くの人に『あいくる』を知ってもらい、動物愛護に関心を持ってほしい」と呼び掛ける。
募集はふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」で行われ、市内在住者も寄付による税額控除が受けられる(返礼品はなし)。
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1967年三重県生まれ。名古屋大学卒業後、毎日新聞社入社。編集デスク、学生新聞編集長を経て2020年退社。同年東愛知新聞入社、こよなく猫を愛し、地域猫活動の普及のための記事を数多く手掛ける。他に先の大戦に詳しい。遠距離通勤中。
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