法外なトランプ関税が、世界経済を混乱へと導いている。4月2日、ロシアや北朝鮮など一部の国を除く、世界中の国に対する相互関税が発表された(直後に90日間停止)。
同時に、自動車については先行して25%の追加関税が発動した(従来の2・5%と合わせて27・5%)。29日には、米国内で組み立てられた自動車の輸入部品に対する関税の減免が発表され、国内に拠点を置く工場の優遇が一層鮮明化された。
三河港は、世界屈指の自動車貿易量を誇る。その最大取引国は米国であり、外貿貿易の約50%を占める(2位のカナダは約7%)。そのため、トランプ関税による日本車輸出の減少は、東三河経済に甚大な被害をもたらしうる。
トランプ関税は文字通り「法外」である。中国は4月4日、「関税および貿易に関する一般協定」(GATT)23条などに基づき、世界貿易機関(WTO)の紛争解決機関(DSB)にトランプ関税の違反申し立て=表=をした。
その中心は、譲許表(2条)と最恵国待遇(1条)の違反である。譲許表は各国の課す関税の上限を定めるものであるが、米国の自動車関税の上限は2・5%である。最恵国待遇は外国国家間の差別的な待遇の禁止を意味するが、当初から中国は34%、EU(欧州連合)は20%などと差別的である。
トランプ大統領の発した競争力向上、主権保護、国家安全保障および経済安全保障の強化のための緊急事態宣言も、GATT上の違法性阻却事由とはならないであろう。DSBの裁定を待たずとも、トランプ関税のGATT違反はほぼ明白である。
しかし、ウィリアム・マッキンリー大統領(1897~1901年)を継ぎ関税男(tariff man)を豪語するトランプ大統領は、第1次政権時に、WTOの紛争解決制度を骨抜きにした。
DSBは2審制であるが、上訴機関にあたる上級委員会の委員の選出手続を米国が阻止し、2019年以降、審理できなくなっている。そのため、1審にあたるパネル裁定に不服な当事国は、上訴さえすれば、審理を凍結させられる。
トランプ関税のGATT違反の訴えは、二国間交渉でも可能である。しかし、中国のように関税の負のスパイラルに陥れば、日本の経済状況の深刻化は不可避となろう。日本からの米軍撤退というカードも切られかねない。
日本政府としては粘り強い関税是正交渉や、国内産業の保護、強靭化策などが求められる。他方で、企業は威圧的で朝令暮改の大統領令に一喜一憂せず、冷静に対応すべきであろう。
米国は外国企業の国内誘致を画策している。しかし、工場の移転には時間がかかり、完成時にはトランプ政権後の新たな経済秩序が形成されている可能性がある。情報収集はしつつも、中長期的に人材育成やサプライチェーンの多元化を模索する方が、企業利益にも国益にもかなう。
たとえば、自動車産業においては半導体や希少鉱物、蓄電池などが必要となる。これらは、経済安全保障推進法により特定重要物資に指定されている。
そして、重要経済安保情報保護活用法に基づく「セキュリティー・クリアランス(適格性審査)制度」が、今月16日に開始する。こうした重要物資に関わる未公開情報の入手や、先進的国際共同開発への参加などのためには、同制度にかなう企業体制の確立や人材の育成が求められる。
関税による被害を何とか耐えつつ、こうした情報にアンテナを立て、持続的競争力の基盤強化などに注力すべきであろう。
経済的相互依存の進んだ今日、トランプ関税は、米国以外の国から輸入する自動車部品の価格の高騰ももたらしうる。
そのため、流通経路の拡大や国内調達の検討も重要となる。その際は、トランプ関税だけでなく、重要物資の中国依存度の逓減なども考慮されるべきであろう。
東三河では、豊橋市の武蔵精密工業が工業蓄電デバイスの自社製造を始めている。こうした取り組みは、経済安全保障の観点からも重要である。
また、国内調達などの活路は数年前は遠い世界であった宇宙や深海底に求められる。
たとえば、蒲郡市の蒲郡製作所などの企業と愛知工科大学が連携して宇宙探査機を開発するなど、宇宙産業の活性化が図られている。
三河湾の先の排他的経済水域では、希少鉱物などの探査が続けられている。こうした一見無関係な活動をする団体も、数年後の重要なパートナーとなりうる。
国内の産官学連携などを深化させるために、豊橋市SDGs(持続可能な開発目標)推進パートナーの制度を東三河に拡大、発展させ、「チーム東三河」の一丸の取り組みを推進していくのも一手であろう。
「国家間関係」も、「企業間関係」も、「人間関係の束」である。そして、人間関係において重要なのは「信頼醸成」である。顔の見える東三河圏内では信頼関係が築きやすい。
トランプ関税を耐え抜くためにも、地域の支え合いの意義は大きい。本来望ましいのは、全人類が地球人という連帯意識をもち、国内同様の完全自由貿易が実現されることかもしれない。
しかし、ウクライナ戦争が長期化し、トランプ関税が猛威を振るう今日、地に足の着いた身近な協力から進めることが肝要といえよう。
尋木真也(たずのき・しんや)
熊本県出身。2005年3月、早稲田大学政治経済学部政治学科卒。08年3月に早大院法学研究科修士課程を修了。15年4月、愛知学院大学法学部の専任講師。20年2月から現職。専門は国際法と国際人道法、安全保障法
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