中国の街角で「青い鹿」をよく目にする。
2017年に創業した中国発の新興コーヒーチェーン「ラッキンコーヒー」は、25年までのわずか8年間で国内約2・2万店に達し、中国最大のコーヒーチェーンとなった。その店舗数はスターバックスの7000店超を大きくしのぎ、創業から驚異的な速度で拡大している。
人気の背景には、味もさることながら、手軽さと価格競争力、話題性のある仕掛けに加え、それを支える効率的な供給体制がある。
当初からレジを置かず、スマホアプリで注文・決済して商品を受け取る形式に特化。従来型の「店内で注文して座って飲む」形と対照的に、持ち帰り前提の小型店舗を多数配置した。AIを用いたオペレーションにより注文後約2分で商品を提供する効率性を実現し、まるで給水所のように素早くコーヒーを受け取れる次世代型のカフェを築いた。
価格設定もクーポン適用後で1杯あたり10~20元(約200~400円)程度と非常に手頃で、この大衆的な価格帯とクーポン割引戦略によって高い頻度でのリピート利用を促している。看板商品のココナッツラテは発売から4年で累計13億杯を超え、日常の定番に定着した。
知的財産(IP)コラボを駆使したマーケティングも戦略の柱で、今夏には世界中で人気の語学アプリ「Duolingo」との異色コラボも実現し、限定グッズが即完売するほどSNSで話題を呼んだ。こうした新たなタイアップをほぼ毎月のペースで仕掛けている。
この爆発的成長を裏側で支えるのがサプライチェーン戦略だ。国内に巨大な自動化焙煎工場を建設し、生豆の選別から焙煎、包装、物流まで工程を高度に自動化して生産効率を飛躍的に高めている。こうした垂直統合による供給網の効率化と徹底したデジタル化によって、人手を最小限に抑えた省人運営を可能にし、急拡大する店舗網を支えている。
革新的な店舗モデルと戦略は、伝統的なカフェ像に挑み、消費者ニーズに応える新たな解を示す。都市の速度に最適化された設計は、今の中国を映しているのかもしれない。そんなことを一杯の持ち帰りコーヒーが教えてくれる。
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