年末が近づくと、永田町では「税調(ぜいちょう)」という言葉を頻繁に耳にするようになる。税調とは税制調査会のことで、翌年度の税制改正に向けて自民党としての方針を決める、党内でも最も重要な会議の一つである。
税調には、幹部議員による少人数の「インナー会議」と、全議員が出席できる「政調全体会議(平場)」の主に二つの会議体がある。インナー会議では税目ごとの制度設計や財源調整などが議論され、平場では業界団体や地域の声をもとに幅広い意見交換が行われる。理屈だけではなく、生活に必要な各種措置(税額控除など)について議論がなされている。
私の印象だが、インナー会議は理屈やこれまでの議論の積み重ねで物事を精査し、平場は実際の国民生活に照らして各議員の主張を審査しているように感じる。限られた財源という現実と、現場の声を組み合わせることで、より現実的な政策として形にしていくのだ。
先輩秘書からは、かつての税調は激しい議論が交わされる場であり、熱気がすごかったと聞く。会議室に向かう党本部の廊下には各団体の幹部がハチマキ姿で並び立ち、人のトンネルが出来ていたほどだった。しかし、最近の税調しか知らない私にはあまり実感がない。ただ、党の他の会議にはない独特の緊張感があることは確かだ。
業界団体の要望をそのまま代弁する議員が発言した場面に立ち会ったことがあるが、当時の宮沢洋一税調会長の理路整然とした切り返しには度肝を抜かれた。まさに「論破」とはこのことかと思うほどの完璧な回答で、その後は誰も反論できない空気になった。
平場では、原則として1人1回しか発言できない。そのため各議員は、どの分野について意見を述べるかを事前に複数の案として用意し、議論の流れを見極めながら慎重に発言を行っている。発言の順番や内容を練るその様子には、ほかの会議にはない緊張が漂う。
前会長の宮沢洋一参院議員は、旧大蔵省(現・財務省)出身ということもあり、税制に非常に詳しく、発言には説得力があった。根拠のあいまいな発言をすれば、すぐに宮沢会長から逆質問が飛ぶ。これに答えられないと、あと一歩という場面でも大きく後退し、税制改正大綱に盛り込まれないこともある。こうした知識と経験に裏打ちされた議論の積み重ねが、税調全体の質を高めているのだと思う。
私が初めて税の議論を見たとき、ある疑問を持った。
それは、政府にも税制調査会が存在しているのに、なぜ与党の自民党で税金の議論を行うのかということだった。私たちの生活に深く関わる税金を、行政ではなく政党が決めていることに少し違和感があったのだ。
しかしこの疑問はすぐに解消した。ある自民党職員に話を聞いたところ、「政府は税金を徴収し、予算を執行する立場にある。われわれ与党は納税者たる国民の代表の集まりだから、国民生活に大きな影響を及ぼす税金の議論は党で行う」とのことだった。確かに、政府は国民から税を集め、それを使う側にある。その税金の額や仕組みを政府自らが一方的に決定するのは、やや乱暴にも思える。国民の代表者である国会議員が、党の場でしっかりと議論を行い、今後の税の形をつくっていくことは当然だと感じた。
秘書にとって、この季節は大量の資料との戦いでもある。机の上は常に資料の山になるが、現場の思いが詰まっている要望書は一枚一枚必ず目を通すようにしている。
事務所に届く要望書の山が、どのようなルートで税調の議論に吸収され、最終的に与党が税制改正大綱をまとめていくのか。
その仕組みについては、次回で詳しく記したいと思う。
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1999年9月19日生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒。元自民党大阪府連学生部長。19年参院議員、松川るい大阪事務所入所。22年から東京事務所勤務。趣味は飛行機(写真・搭乗・航空無線)
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