【連載】アジアの街角から〈6〉愛知県庁駐在員リポート|バンコク産業情報センター・塚田新也

2025/12/22 00:00(公開)
立ち退きが言い渡されているスクムビットソイ26の様子=2025年11月、筆者撮影
立ち退きが言い渡されているスクムビットソイ26の様子=2025年11月、筆者撮影

姿を消しつつある屋台

 

 バンコクの街を歩いていると、ふと寂しさを覚える瞬間がある。ついこの間まで湯気を立てていたはずの屋台が姿を消し、歩道の端にぽっかりと空いた空間があるのだ。このように屋台が徐々に姿を消しているのにはもちろん理由がある。バンコク都がここ数年、歩道整備や安全向上を掲げ、屋台の整理を進めているためだ。

 

 この流れは路地の奥にも及び、最近は日本人が多く住むスクムビット地区の南側、スクムビットソイ26の立ち退き問題が注目を集めた。屋台だけではなく、長年商売を続けてきたマッサージ店や食堂、居酒屋などが店を畳み、再開発の波に押し流されるように去っていく。跡地には大型複合施設の計画が進んでおり、将来的には街の姿がさらに大きく変わるとも言われている。街のあちこちで大きな工事が行われていることからも、バンコクの街が発展を続けているのは誰の目にも明らかだ。モール好きの私としては、洗練された巨大モールが整備されるたびに喜んでいる一方で、再開発によって屋台や古き良き店が失われていくことに寂しさも覚えている。屋台での調理の音、トウガラシの香り、気さくな会話…それらはモールの整然とした空気とはまったく違う、バンコクのもう一つの大きな魅力である。

 

 もちろん再開発の必要性は大きい。渋滞の緩和や歩行者の安全確保、観光都市としての魅力向上は、どれもバンコクが抱える長年の課題だ。確かに都市の環境が良くなっている部分はある。だが、便利で洗練された未来の街と、これまでのバンコクらしさ。そのいいとこ取りにこそ、人々が心地よく過ごせるちょうどよいバランスがあるのではないかとも思う。

 

 屋台の消えた歩道を眺めながら、バンコクの未来は果たしてどんな姿になっていくのだろうと、ふと考えることがある。新しい街並みがもたらすワクワク感と、失われていく日常の風景。そのどちらにも心が揺れ動く。変わりゆく街を前に、バンコクの人々は何を残し、何を受け入れるのか。これからも見守り続けたい。

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