豊橋の石巻山で「日乃出屋」を営む河邊義明さん 「景色すべてを映画のワンシーンのように」

2026/08/16 00:00(公開)
「愉快な人を増やしたい」と活動する河邊さん=豊橋市石巻町で
「愉快な人を増やしたい」と活動する河邊さん=豊橋市石巻町で

 豊橋市北東部にある石巻山(358㍍)の中腹で、昭和レトロな店「日乃出屋」を営む河邊義明さん(42)。今月末までの土日曜に開かれている夜店の発起人だ。服飾販売や映画製作で培った「その場にふさわしいものを選ぶ」「フレームの中に余計なものを置かない」という美意識が、活動の礎になっている。

 

 河邊さんは高校卒業後、駅前の洋服店に就職し、26歳で独立した。スーツからカジュアルまで幅広く扱っている。原点は20代で感じた違和感だった。「ファッション業界の人たちが結婚式でスーツを着ると、逆に格好悪いと感じることが多かった。それが嫌で、その場の雰囲気に応じたファッションをやりたかった」と振り返る。

 

 40年以上前、石巻山一帯には休憩所や宿が立ち並ぶ観光地だった。今は宿を1軒残して閉業し、建物は廃虚のようだった。衰退を食い止めようと、河邊さんが妻の後押しで2019年頃、市中心部から石巻山の麓に移り住み、近所の人と親しくなったのがきっかけだった。石巻山は幼少期の思い出の場所。父や祖父と虫捕りに通い、友人と自転車で山道を登った。店内にはチョウの標本が飾ってある。「良い思い出しかない。ずっと石巻山が忘れられず輝いた場所に見えていた」という。

 

 2020年頃から仲間とマルシェを開いてきたが「これでは何の意味もないな」と感じるようになった。かつて土産物を販売していたという建物を所有者から譲り受けて仲間と片付け、23年に開店した。店内には「パラダイス」の文字が躍るTシャツや帽子などオリジナルグッズ100点が並び、天井や壁を昭和時代のポスターや雑誌が彩る。市街地を見下ろすテラスも自慢だ。

 

 昨年から地元の陶芸家稲吉オサムさん(50)らと映画制作の合同会社「稲映」を設立。同年公開された第2弾は、リゾート開発を企む一味と、のんびり暮らす住人たちとの対決を描く物語だ。河邊さんはプロデューサー的な役割で、同市南栄町の呉服店「山正山崎」の山﨑嘉大さん(44)らにも参加してもらい、撮影は石巻山を中心に牛川の渡しや嵩山の蛇穴などでも行った。

 

 映画づくりを通じ、日常の風景の見え方も変わった。「写真を撮影する時に『ファインダーの中に雰囲気に合わない服装や振る舞いの人が映ると作品に使えない』と感じることが増えた」。その感覚は夜店の運営にも重なる。2年目を迎え、地元だけでなく市内外からさまざまな人が訪れるようになった。「駐車場で理不尽な文句を言ったり、ごみを捨てたりする人が来てイライラするくらいなら来なくていいし、考え方が合わない人は去る者追わず」と言い切る。「訪れる人自身もエキストラのように景色の一部に溶け込み、その空間全体が映画のワンシーンのようになる」ことが理想だ。

人気の夜店
人気の夜店

 河邊さんが目指すのは、仲間たちとの「パラダイス」づくり。特に意識するのは、まだ価値観が変わっていく子どもたちで「ここで楽しかった思い出を残して帰ってくれたらいい」と願う。好きな言葉は「愉快」。「人がくすっと笑うことを増やしたい。冗談なのか本当なのか分からない世界のような面白さを、僕らはこれからもずっとやっていくんじゃないか。ばかにも2種類あって、不愉快なばかではななく愉快なばかを増やしたい」と笑った。 

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北川壱暉

 1998年浜松市生まれ。昔からの夢だった新聞記者の夢を叶えるために、2023年に入社した。同年からスポーツと警察を担当。最近は高校野球で泥だらけの球児を追いかけている。雨森たきびさん(作家)や佐野妙さん(漫画家)らを取り上げた「東三河のサブカルチャー」の連載を企画した。読者の皆さんがあっと驚くような記事を書けるように日々奮闘している。趣味はプロ野球観戦で大の中日ファン。

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