劇作家の鴻上尚史(こうがみしょうじ)氏の軽妙な司会振りで人気の「クールジャパン」という長寿番組がNHK(BS1)放映されています。ご覧になった方も多いのではないでしょうか。2010年に経済産業省が「クール・ジャパン室」という部署を作り、クールジャパンを産業政策に取り入れるようになってから、外国人の目から見た、日本人の気がつかない日本の格好いいものを紹介する<クールジャパン>はいつの間にか、<日本スゴイ>という「日本われぼめ」とも言うべき称賛ブームに変質していきました。そう言った動きに合わせるように日本人の意識調査(NHK放送文化研究所による2013年調査)でも、「日本人は、他の国民に比べて、きわめてすぐれた素質を持っている」と答えた人は67.5%と、高度成長を経て世界に冠たる経済大国になり、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われた1983年の調査の71%に迫っています。同様に「日本は一流国だ」は、54.4%でこれも1983年の57%に近づいています。一方で数値化することには、いろいろな意見はあるでしょうが、国連が定めた「世界幸福デイ」である本年3月20日に、国連と米コロンビア大学の研究所が発表した世界幸福度ランキングで日本は、155カ国中、51位でした。このランキングは、調査対象にする国の国民の自由度や、1人あたりの国内総生産(GDP)、政治、社会福祉の制度などをもとに2014〜2016年の「幸福度」を数値化し、ランク付けしています。ちなみに上位5カ国のうち4カ国(ノルウエー、デンマーク、アイスランド、フィランド)を北欧が占め、報告書では「上位4カ国は、国民の自由度、政治など幸福に関係する主要なファクターの全てで高評価を獲得した」とも指摘しています。また、国際NGO「国境なき記者団」による2016年度の報道の自由ランキングでは、調査報道の不足、メディアによる自主規制、特定秘密保護法等の問題点が指摘され、日本は前年の61位から大きく後退し、180カ国中72位となっています。ところで、戦後の焼け跡から目覚ましい復興を成し遂げた時ではなく、今、「クールジャパン」「日本スゴイ」ブームが起きていることを私たちは、冷静にに考えてみる必要があります。右上のグラフを見れば一目瞭然ですが、1991年以降、日本の名目GDP(国民総生産)は、全く増えていません。
そう言った意味で現在、このような経済状況下で、日本を称賛する番組や本が持て囃されているのは、明らかにおかしな社会現象だと申せましょう。考えてみれば日本が本当に「凄かった」高度成長時代に私たちは「日本はスゴイ」などとは言ってなかったのです。まだまだ、日本はこれからやるべきことが山積だと考えていたのです。現在、2012年に始まった日銀による異次元金融緩和政策が行き詰まり、デフレ脱却の雲行きも怪しいなか、年金資金や日銀資金の投入によってかろうじて現状の株価を維持しています。現実を客観的に見る冷静な眼を持たなければ、本当にクールな日本になることは難しいのではないでしょうか。
(取締役統括本部長 山本正樹)