クールジャパンの裏側にあるもの(3)

2017/06/10 00:00(公開)
社会学者のエズラ・ヴォーゲルが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言う本を書いてから、40年近い歳月が経ちました。そして現在、名門企業東芝が解体の瀬戸際に追い込まれ、シャープが事実上倒産し、外国企業に買収され、民営化した日本郵政は数千億円の巨額損失を計上、中央銀行である日本銀行はGDPの80%にあたる400兆円の日本国債を抱える異常事態となっています。1989年には新規国債の発行が必要なくなると言われていたことを考えると、劇的な変化です。また、現在の世界情勢も中国の台頭に象徴されるように、その当時とは全く違ったものになっています。さらに昨秋、登場したトランプ大統領によって世界の体制も新たな段階に入ろうとしています。その象徴的な出来事がイギリスのEU離脱です。
ご存じのように1951年のサンフランシスコ講和条約によって、日本は独立を回復しました。それは冷戦下において、日本国が米軍に占領されているというきわめて特殊な条件下のものでした。このサンフランシスコ体制の意味するところは、米国からの日本の再軍備、日本における米軍基地の存続、講和会議からの中華人民共和国等の排除という要求に日本が同意する見返りに表面的には寛大な講和条約によって独立し、安保条約を結ぶことによって、米軍による保護が確実になるということでした。その結果、講和条約第6条には、「連合国のすべての占領軍は、この条約の効力発生の後なるべくすみやかに、且つ、いかなる場合にもその後九十日以内に、日本国から撤退しなければならない」と、前文に明記されているにもかかわらず。終戦後も占領期と同様に治外法権的特権を維持したまま、米軍が日本に駐留し続けることになりました。そして民主的な憲法と外国軍駐留の矛盾を露呈させないために1959年、有名な砂川事件において最高裁は、欧米先進国では例のない「統治行為論」を持ち出し、日本国憲法第81条に「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と明記されているにもかかわらず、憲法判断を留保する状況に逃避し、現在に到っております。その結果、日本には<安保法体系>と<憲法法体系>の二つが存在し、日本国憲法98条第二項の「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」という条文によって安保法体系が国の最高法規である憲法法体系の上位に位置するという主権国家とは言い難い状況になっています。

ところで、本年5月3日、安倍首相が自民党の憲法草案の内容を無視する「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」というビデオメッセージを発表し、自民党内外に大きな波紋を拡げています。30年前、平和国家を標榜する国の首相である中曽根康弘氏が「日本をアメリカの不沈空母にする」と発言、物議を醸しましたが、事態はそのように進み、2004年、後藤田正晴元副総理が「日本は米国の属国である」という考えを大手メディアのインタビューで明言するに到りました。その意味で、憲法が最高法規として機能していない日本という国の不都合な真実を直視する勇気が今ほど、求められている時はありません。
(取締役統括本部長 山本正樹)
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