内閣府の有識者検討会が、公的年金を受け取り始める年齢を70歳より後にもできる仕組み作りを「高齢社会対策大綱」に盛り込む検討に入ったこと、また、日本の年金制度の実態は「10割負担」であることをご存じでしょうか。
そもそも日本の公的年金は世代間扶養とされ、現役世代が支払った国民年金保険料、あるいは厚生年金保険料、共済年金保険料が、政府からの同額補助(これも税金ですから当然、国民負担)を受けて基礎年金勘定としてプールされ、60歳~70歳以上の年金受給者に給付されています。この時、国民年金加入者は基礎年金だけを受け取りますが、厚生年金や共済年金の加入者には、サラリーマンや公務員の方が、拠出段階でより多くの保険料を支払っているので、基礎年金に上乗せ分が給付されます。厚生年金保険料や共済年金保険料は給与から天引きされ、会社や役所からの補助を加えて支払われています。保険料の拠出額は、平成16年(2004年)の年金制度改正までは、少なくとも5年に一度の財政再計算を行い、給付と負担を見直して年金財政が均衡するよう、将来の保険料を引き上げ、計画を策定していましたが、少子高齢化の急速な進展に伴い、当時の方法のまま給付を行う場合、将来的に保険料水準が際限なく上昇していくことが懸念されたことから、将来の保険料負担を固定し、その範囲で給付を行うという、新たな年金財政の運営方法がとられるようになりました。このことは同時に、将来の保険料負担を固定したままで、少子高齢化の進展が進むと、将来的に給付水準が際限なく減少していくことを意味しています。つまり、平成16年(2004年)の年金制度改正で、形としての年金制度は維持できるようにしましたが、今まで言われていた平均的なモデルの「65歳のサラリーマン夫と、専業主婦の組み合わせで、夫婦で月額133,972円」は、半ば破綻しているということを意味しています。このように年金制度の基盤を崩し始めた大きな原因の一つが、深刻化する日本の少子高齢化進展にあります。そして少子高齢化の大きな要因が、終身雇用制度が崩壊し、非正規雇用が増加したことによってもたらされた<結婚できない経済:稼ぎが少ない>の問題にあることも各種調査によって明らかになっております。つまり、日本のセーフティーネットが平成バブル後の失われた20年を経て今、大きな曲がり角に来ていることを国民一人一人が真剣に考えるべき時を迎えているということです。現在のセーフティーネットは、経済成長、人口増加、完全雇用を前提にして設計されたものです。それらすべての前提が崩れ、AI(人工知能)によって人の仕事が大きく減少することが予想されるなかで21世紀型の新たな社会の仕組みの構築が求められています。例えば、インターネットによる技術革新によって数百万の小売業者が消え現在、私たちの家の片隅にはアマゾンの宅配の段ボール箱が溢れかえっています。グローバル化が進み、世界が小さくなるほどビジネスの勝者は少なくなります。その結果、米国では貧富の差は、奴隷労働で支えられていた古代ローマの時代より大きくなっています。このことは大きなパラダイムシフトしなければ、社会の安定を脅かす臨界点に近づいていることも意味しています。近代社会を維持、発展させてきた所得の再分配機能をどのように考えるかが今、問われているわけです。今まで述べてきたベーシックインカムによって、個々人は自分の人生設計に応じて就労による金稼ぎや社会貢献、生活の質の向上といった多様な道を選択できるようになる未来が築けるはずです。
(取締役統括本部長 山本正樹)