橋渡し役は豊橋の石坂さん
台湾のロータリークラブが、東三河の地域猫活動のために156万円を寄付した。遠く離れたロータリアンと当地の橋渡し役となったのは、豊橋市に住む石坂麻由美さんだ。取材に「東三河の猫の現状について無関心だったことが恥ずかしい。行政や企業、団体はもっと積極的に取り組んでほしい」と話した。
台湾人の夫と知り合い、結婚した。夫は鉄鋼会社の経営者で20年以上連れ添ったが4年半の闘病生活の末、2021年に亡くなった。看護に尽くしたがむなしかった。豊橋市の実家に戻り、両親らと暮らし始めた。日本を離れることも考えていた。
家に来る野良猫がそれを変えた。同じ敷地内に住んでいた弟が餌を与えていた。自身は「10代の頃、近所の猫を触ったことがある程度」という石坂さん。7~8匹いるようで、午前4時半になるとやってきて、人間が出てくるのをじっと待っていた。
だが、弟が引っ越すことになった。石坂さんが代わりに餌をやったが、このままではどこにも行けない。猫への責任を感じてインターネットで調べ、相談したのが東三河で地域猫活動を続ける動物福祉団体「ハーツ」代表の古橋幸子さんだ。
電話すると古橋さんはすぐ家に来た。そして「捕まえて手術しましょう」と言った。多くの人は、不妊・去勢手術に費用がかかることを伝えると二の足を踏む。だが石坂さんは違い、古橋さんの提言に全面的に従った。捕獲器の使い方を教えてもらい、自分で猫を捕まえられるようになった。近所の公園から来ていた猫も含め、3カ月以上かけて29匹が捕獲器に入った。子猫が17匹いた。12匹は新しい飼い主を探すためにハーツが引き取った。
忘れられない光景がある。ある日、餌場から少し離れたところに置いてあったプランターの中に子猫が2匹入っていた。寄り添ってじっと夕日を見ているようだった。「この小さな命を守りたい」と決意したという。
捕獲の過程で、地域猫のことを学んだ。ハーツのメンバーらが努力する一方で、東三河では捨て猫が横行する実態を知った。「人間とは姿形は違えど尊い命。殺処分、遺棄、虐待のない世にしなければ」と石坂さん。
昨年11月、夫がメンバーだった台湾のロータリークラブでスピーチする機会を得た。「さまざまなところで多くの寄付をしていた」という夫をしのびつつ、古橋さんが捕獲を手伝ってくれたこと、不幸な猫の実態を知りハーツの活動を助けたいと思ったことを、台湾語で話した。会員から浄財が寄せられた。先日、ハーツに寄付された。
現在、豊橋市内に新居を建築中だ。猫部屋をつくる。飼うのは初めてだが、ボランティアらが預かってくれている10匹を引き取る。石坂さんは言う。「猫は何も言えない弱い存在だ。そこに心を寄せることで、世の中が良くなるのでは」
一方、公的支援がなく、ボランティアの自己負担とクラウドファンディング(CF)で地域猫活動資金を捻出しているハーツ。豊橋市には手術の補助金制度があるが、予算を使い切ると後は自腹だ。先日の7回目のCFでは初めて、最終目標金額に届かなかった。古橋さんは異国からの支援に対し「気持ちが強くなれる。感謝します」と話した。
【山田一晶】
台湾のロータリークラブの例会に出席した石坂さん(提供)