【連載】違いをたのしむベルギーライフ〈44〉 ツアーで学ぶ障がい者の”目線(金子ヴァンダイク房代)”

2024/12/15 00:00(公開)
モダンな空間の中に圧倒的な存在感を誇る作品

 2年前の今頃、地元の友人の活動をきっかけに、毎年12月3日から9日までの1週間を「障害者週間」と障害者基本法で定められていることを知りました。12月9日は1975年に国連総会で「障害者の権利宣言」が採択された日です。

 

 さて、ベルギーではどのような活動があるのか気になり調べてみると、ブリュッセルでは11月29日から12月7日まで「第3回障害者週間」として芸術や映画鑑賞、スポーツ活動、討論会など多くのイベントが開催されています。あいにく詳細情報はフランス語とオランダ語のみ。私にはハードルが高いのでフランス語の堪能な芸術系の友人ギレンと一緒に出かけることにしました。

 

 私たちが参加したのは視覚に障がいのある人たちと一緒に芸術鑑賞をするガイドツアーです。会場へ直接行く方法もありましたが、参加者とブリュッセル中央駅で集合し、一緒にバスで会場へ向かいます。ブリュッセルでも1、2を争うほど混みあう路線で障がいのある人にとっては大変だろうと心配していましたが、バスの中では周りの人たちがさっと席を譲り、皆さんすぐに座ることができホッとしました。

 

 邸宅博物館へ着くと入り口の近くにカフェがあり、まずは座って建物の説明を聞きます。一時期、廃墟化したこの建物は、家具も含めて意図的に建築された当時の状態を復元したそうです。触ってわかるように建物正面デザインのレリーフ図も用意されていました。

 

 調度品の話は目の前にある金をあしらったテーブルから始まります。壁際にあった粘土の小さな作品をガイドさんがテーブルに移し、それを触りながら説明に耳を傾けます。博物館で作品を触るという体験を、とても新鮮に感じました。その後ホールへ出てドーム型の柔らかい光を放つステンドグラスのショーケースや大理石の冷たく硬い柱などを触わり感触で堪能します。

 

 そして、いよいよ特別展「ピエール・アレシンスキー」の作品鑑賞です。今年97歳を迎えたベルギーを代表する作家のアレシンスキーは日本にも滞在したことがあり、墨と筆に強い影響を受けたそうです。1991年に製作された「マルセイユ―ヨコハマ」と題した作品は地図の上に筆を走らせ力強く描いています。その日本地図の中に豊橋の地名を見つけた時は感動しました。

 

 1階と2階にある100点ほどの作品は部屋の中だけでなく階段や廊下に至るまで、空間と程よく調和し展示されています。その作品群の説明に加え、建物の歴史的背景などを聞きながら館内を巡ります。建物に属しているものは触れますが、展示作品は触ることができません。独創的な作品群の話を聞いていると「私も見てみたい」と、参加者の女性が言っていました。それほど興味をそそる丁寧な解説なのです。

 

 今回のガイドツアーの所要時間は約1時間半です。「アルカディア」という歴史や美術関連のツアーを企画している団体とパートナーである「エクラ」(https://eqla.be/)の訓練されたガイドさんが同行します。博物館へ行くと展示してある作品を中心に見ることが多いのですが、今回のように作品のある空間を触れながら感じるという鑑賞方法には深い学びがありました。

 

 私は視覚から入る情報をいかに有効に活用するかというビジュアル戦略を得意としています。ある日ふと「目の見えない人には伝わっていないのではないか」と思い、視覚に障がいのある人にも役立てたらいいなと漠然と考えるようになりました。前後しておいが障がい児に関わる仕事を始めたことも影響しています。緊張してバスを待つ間、参加者たちがまるで見えているように話しかけてくれて、温かい気持ちになりうれしかったです。この特別な体験は友人の助けなしには実現できなかったでしょう。

 

 今回のような触覚体験や解説方法がビジュアル戦略に加わったらどうなのだろう? きっと実りが大きいのではないかと思います。

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