契約解除か継続かで揺れる豊橋市の新アリーナ事業は、長坂尚登市長と市議会や事業者の主張が平行線をたどる。市議会の契約解除を議決要件とする改正条例、事業者との契約解除事由を巡る対立はいずれも長期化が予想される。そんな状況で成立した新年度補正予算は関連事業費を盛り込む一方で執行時期ははっきりしない。その要件の一つに長坂市長は住民投票を挙げ、以前から主張していた路線が敷かれつつある。
市議会は昨年12月定例会で、市の契約解除に議会の議決を要件とした条例改正案を可決した。長坂市長は1月14日に採決をやり直すよう再議(拒否権)を申し立てたが市議会は再可決。長坂市長はこれを不服とし、2月18日に大村秀章知事へ審査を申し立てた。3月31日に知事審査は棄却されたが、市長は1日から60日以内に裁判所へ訴えることができる。
1日の市長会見で長坂市長は「思ったより早い裁定に驚いた。内容を精査し対応を考えたい」と提訴の方針について明言しなかった。
改正条例は、議会の議決権を定めた地方自治法96条2項を巡る解釈が争点とされる。法で明文化されておらず、司法判断も示されていない。法廷で争えば問題の長期化は避けられない。
もう一つの対立は契約上の解除事由を巡る認識の違いだ。特定事業者「豊橋ネクストパーク」とで異なっている。長坂市長は当初からPFI法に基づく特定事業契約での解除で損失補償額など最小限に抑える方針を掲げた。
同社へは市長就任後、契約解除へ向けた協議を申し入れるよう担当部署へ指示。昨年11月21日に申し入れ、市側は全業務を一時中止するよう通知した。
事業者は時間を置かず同月27日付に市へ返信した文書で「契約解除の事由が発生していない」との認識を示した。市は2月6日付文書で「解除事由はある」との認識を改めて強調したが、その後は3月4日に解約へ向けた協議の場が設けられたが、互いの主張が平行線のままだという。
約定解除での協議が不調の場合、民法上の法的解除なら損害賠償請求も視野に入る。現状では根拠となる情報がなく、見通しも立たない。
一連のやり取りは小林憲生氏(自民)の情報公開請求した公文書と議会質疑で判明した。
その一方、3月24日の市議会予算特別委員会で自民など4会派から、アリーナ関連事業費を新年度予算に盛り込む動議が出された。市は即日対応で補正予算を提出、賛成多数で可決された。
質疑では補正予算の執行時期や市長の意思が問われた。長坂市長は「今後の動向を踏まえて」と執行時期は示さなかった。一方、執行が必要とされる条件として「住民投票が提案された場合」と明言。具体的な手法は示さなかったが「結果を尊重する」と強調した。
長坂市長は市議時代に2回、市民団体が直接請求した住民投票条例案に賛同している。補正予算を計上しながら、あくまで「契約解除の方針は変わらない」と質疑で断言している。住民投票の提案には従うが、その他の条件には前向きな発言はしていない。
住民投票は法的規制もなく、市長や議会の責任の所在もはっきりしない欠点が残る。予算を「人質」にとられた格好の市議会にも対応と判断に注目が集まる。
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愛知県田原市出身。高校卒業後、大学と社会人(専門紙)時代の10年間を東京都内で過ごす。2001年入社後は経済を振り出しに田原市、豊川市を担当。20年に6年ぶりの職場復帰後、豊橋市政や経済を中心に分野関係なく取材。22年から三遠ネオフェニックスも担当する。静かな図書館や喫茶店(カフェ)で過ごすことを好むが、店内で仕事をして雰囲気をぶち壊して心を痛めることもしばしば。
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