【連載】愛知学院大尋木准教授の東三河と国際法<6> 東三河ブランドの農産品の輸出戦略

2025/06/16 00:00(公開)
田原市の亀若芋焼酎

■継続する貿易の自由化

 

 トランプ関税が、世界の貿易環境の激変をもたらしている。この高関税の報道に連日触れていると、日本からの輸出が極めて困難になっている印象を受けるが、米国との貿易の回避を模索する諸外国にとって、円安の日本の商品は魅力的である。

 

 とりわけ、昨今の日本食や日本文化への高い関心と相まって、日本の農産品や食品の輸出は、好機を迎えているとさえいえる。コメは、現在価格高騰で減反や輸出政策について議論されているが、農業全体の見直しが求められよう。東三河も、地域で結束して輸出を拡大することで、経済や文化の活性化が期待できる。

 

■貿易の自由化の展開

 

 貿易の歴史を顧みると、第二次世界大戦はブロック経済による資源の囲い込みが一因となって勃発した。その反省から、1947年に、関税の撤廃などによる貿易の自由化を目的とする「関税及び貿易に関する一般協定」(GATT)が署名された。その後、95年に貿易の自由化を目的とする世界貿易機関(WTO)が設立されたが、経済体制の異なる多国間の交渉は難航を極めた。

 

 そのため、すべての国との平等な貿易を意味する最恵国待遇を原則として維持する一方で、GATT24条で例外的に許容される二国間や多国間の自由貿易協定(FTA)が、日本でも2000年代から徐々に増え始める。

 

 当初は、アジアや中南米の国との二国間経済連携協定(EPA)が多かったが、18年の「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(CPTPP=TPP11)を皮切りに、20年の「日EU経済連携協定」(日EU・EPA)や、22年の「地域的な包括的経済連携協定」(RCEP)といった「メガFTA」が相次いで発効している。

 

■危機を好機に

 

 TPPを離脱した米国との間では、20年に日米貿易協定と日米デジタル貿易協定が結ばれている。トランプ関税は、日米貿易協定上の関税の削減(2条)や新たな関税の導入の禁止(3条)の義務に違反することが考えられる。こうした違反により日本からの対米輸出が制限された状況下においては、他国との貿易が、持続可能な経営や経済安全保障の観点から重要となる。

 

 TPP交渉時には、安い外国産品の輸入の増加により、日本の農家が大きな被害を受けることが懸念されていた。確かに、畜産や飼料などの一定の分野では、メガFTAの負の影響が及んでいるものと思われる。

 

 他方で、農林水産物、食品の輸出額は12年が4500億円だったが、24年には1・5兆円と3倍以上に増えている。主要な輸出先は米国とアジアであるが、トランプ関税を契機に、欧州などへの販路の拡大も検討されるべきであろう。

 

日EU・EPAと日英EPAで保護される東海地方のGI産品

■GI登録による付加価値

 

 輸出品のブランド化戦略として、15年に始まった「地理的表示(GI)制度」の活用が考えられる。GIは、一定の製法に従った地域の特産品であることを示す名称を保護する役割を担う。

 

 17年に、八丁味噌(みそ)の名称使用が「愛知県味噌溜醤油工業協同組合」に認められた際、岡崎市にある老舗「まるや」と「カクキュー」が八丁味噌を名乗れなくなるおそれが生じ、話題となった。この問題は両企業で構成される八丁味噌協同組合がGI追加登録の申請をし、今年1月に認められたことをもって一応の解決をみた。

 

 日本でGI登録されると、EPAを締結する多くの国と順次相互認証が行われる=表。それにより、外国で名称や品質が保護されるとともに、認知度や価格競争力の向上も期待できる。

 

 たとえば、日EU・EPAではシャンパンや神戸ビーフなどの名称が、相互に保護されることとなった。東三河では22年に「豊橋なんぶとうがん」が、また今年1月には「豊橋花穂」がGI登録されている。今後順次EPAで認証されていくことが期待されよう。

 

■物語による付加価値

 

 近年、伝統や地域性、生産者の思いといった商品の背景にある物語が、購買意欲を向上させている。

 

 東三河産の農産品の案としては、大葉とシイタケの甘煮を添えた夏の風物詩のひやむぎや、肉じゃがやブリ大根などのおふくろの味レトルトセットなどは、物語性のある和食商品となろう。宗教や文化を越えた融和を図る、ハラルやコーシャ認証に対応した精進料理などもおもしろい。

 

 そのほか、昨今「モダンブリティッシュ」(外国食材などを加え現代風にアレンジした伝統料理)が注目されるイギリスに向けた、ハッシュドビーフをアレンジした新城市のハヤシライスの逆輸入的販売戦略にも、恩返しの物語が生まれる。

 

 昨年末に、日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことは、設楽町の蓬莱泉や田原市の亀若芋焼酎の追い風ともなる。

 

 県は東三河振興ビジョンの中で、東三河の特産品を使った商品開発プロジェクトなどを支援している。こうした取り組みに参加し、専門家の助言を仰いだり、輸出戦略とインバウンド観光戦略を織り交ぜ、SNSによる波及効果を狙うのも一案である。

 

輸出用おふくろの味レトルトセットのイメージ図(ChatGPTの生成画像に一部加筆)

■東三河一丸の取り組みを

 

 食品や農産品を輸出する際には輸出先国の規制に応じて、検疫、ラベル表示、原産地証明書など、通関上のさまざまな手続が必要となる。農家や中小企業単独では困難な手続きも、産官学連携などの協力により、対応が容易化しうる。地域内での連携の強化は、地域の魅力向上にも資する。

 

 ブロック経済の反省の観点からは、輸出拡大は戦争の回避にもつながろう。SDGs目標16(平和の実現)と目標17(パートナーシップ)に適う、東三河一丸の輸出戦略を期待したい。

 

尋木准教授

尋木真也(たずのき・しんや)

 

 熊本県出身。2005年3月、早稲田大学政治経済学部政治学科卒。08年3月に早大院法学研究科修士課程を修了。15年4月、愛知学院大学法学部の専任講師。20年2月から現職。専門は国際法と国際人道法、安全保障法

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