宗田理さんの子息、律さんが「ぼくらの秘密基地」出版

2025/07/30 00:00(公開)
「ぼくらの秘密基地」を紹介する宗田律さん

 ベストセラー小説「ぼくらの七日間戦争」で知られ、豊橋市の「豊橋ふるさと大使」を務めていた作家の宗田理さんが亡くなって1年3カ月あまり。彼の代表作で累計2000万部を誇る「ぼくらシリーズ」の最新作「ぼくらの秘密基地」が今月9日、角川つばさ文庫から出版された。執筆は次男の宗田律さん。父から「宗田イズム」を受け継ぎ、時代に即しながらも一貫したテーマで痛快な物語を書き上げた。

 

 「ぼくらの七日間戦争」は1985年に角川書店から出版されたベストセラー。廃工場に立てこもった中学生たちが暴力教師や親、悪い大人たちと対決する内容で、当時の中高生から熱い支持を受けた。

 

 その後、シリーズ化されロングセラーとなっている。88年には実写映画化、2019年にはアニメ映画化などされ、刊行40年を迎えた今年、田中樹さん(SixTONES)主演で全国6カ所での舞台も控えている。

 

 新刊「ぼくらの秘密基地」は、生前の理さんの思いを受け、律さんが書き下ろした。中学2年の夏休み、クラスの女子たちが「解放区」をつくるため立ち上がる。最高の七日間を過ごす予定が犯罪に巻き込まれ、みんなで力を合わせて“いたずら”で敵と立ち向かう話だ。

 

 8月から七日間戦争の舞台が始まる。「七日間戦争を知っている人も、知らない人にもぜひ新刊を手にとっていただきたい。父のメッセージを受け継いだつもり。この本をきっかけに他のシリーズにも興味を持っていただけたらうれしい」と呼び掛ける。

    

 律さんに、執筆に至る経緯や父理さんとの新作に関するエピソードなどを聞いた。

 

         ◇

 

 父が昨年亡くなり、四十九日を過ぎた頃、「やってみないか」と声が掛かった。自分としても長年手伝ってきていたので「書ける」という自信はあった。とはいえ「僕ら」の看板を背負うことについては、40年間根強いファンがいる中で、息子だからといってたやすく書けるものではないとの見方も多分あるだろうと思い、書くことよりそちらがものすごくプレッシャーになりましたね。

 

 父の仕事の手伝いをするようになったのは20年前、映画「早咲きの花」がきっかけでした。撮影が始まる2005年、「ご当地映画だし、やはり地元で盛り上げていかないと。地元で成功しないと全国に広がらないから豊橋でPRを」ということで、父にサポートを頼まれました。「それも面白そうだ」と東京の仕事を辞めました。

 

 最初は執筆を手伝うというよりは、菅原浩志監督の下で映画のプロモーションの仕事をしていました。2007年にポプラ社から「僕らの七日間戦争」の中学生編が出されたことで読者が低年齢層にも広がって再ブームが起き、新作の依頼があったことなどから父の取材の手伝いや構成など本の手伝いもするようになりました。

 

 新作の原案はかなり前から生まれていました。七日間戦争が「つばさ文庫」から出て少しした頃、つばさ文庫は女の子が多く読むこともあって「女の子たちが活躍する七日間戦争も読んでみたい」という話があったんです。父もそれは知っていたんですが、現代で女子が立てこもって…という話はなかなかできないんじゃないか?と。僕も生前の父と何度か話したことがあるんですが「書きづらいなあ」ということでずっとペンディングになっていた。

 

 たまたま父が亡くなる10日前、出版社からのインタビューを受けた際、「現代の七日間戦争を書くとしたらどんな話を考えますか」と聞かれ、ちらっと女の子たちの話をした。今回、角川さんが僕に書かせるにあたり、そこをフックにしたかったと思うんです。七日間戦争という看板作品、その女の子版を、父が温めていたアイデアなども入れながらやってみませんかと。「せっかくの機会なのでやりたいです」とお答えしました。

 

 執筆は昨秋からです。いやあ、苦労しましたね。

 

 まずプロット作りが大変だった。あとは悪い大人をやっつける、という部分。40年前は暴力的で分かりやすい悪い大人がいたわけですが、今はどうなんだ?と。2年前だったかな、名古屋の高校生が「七日間戦争を文化祭で演じたい」と言ってきて話を聞いたんですよ。今の子たちって全然環境が違うのに何が面白いんだろうと思って質問したら「時代劇みたいだ」と。勧善懲悪が楽しいとの話を聞いてなるほどな、と思った。

 

 現代の悪い大人はどうするかと、SNSやフェイクニュースのどこで足を引っ張られるかわからない。そういうことが普通にある世の中怖いよね、と父と言っていた。そういうSNSの闇みたいなものが悪なんじゃないかと。あくまでも児童書なので、ドロドロした部分は書かず、そういうものを利用した悪い大人をやっつけるという。ぼくら側にもネットでいじめられた女の子を登場させた。父のアイデアも盛り込んだ形で組み立てました。

 

 20年、15作品、父とは一緒に仕事をしていたので、シリーズの世界観や「ぼくら」のくせ、傾向を自分も分かっている。編集者も分かっているので、そこも安心して書けた部分がありますね。違和感無い出来になったかなと。編集長も「大丈夫」と言ってくださり、よかったなと思います。

 

 「悪い大人にだまされるな」「自分たちの頭で考え、行動しよう」などが作品のメッセージですね。これはシリーズの一貫したテーマです。父は昔から「必ず考えなさい」と言っていた。昔は情報の無い中で考えることが大切で、現代は情報過多の中で何が正しいかを判断することが大事。そして“いたずら”でやっつける。これが「ぼくら」の醍醐味(だいごみ)ですね。

 

続きを読む

購読残数: / 本

この記事は登録会員限定です
この記事は有料購読者限定記事です。
別途お申し込みをお勧めします。

田中博子

 愛知県豊橋市生まれ。大学卒業後、校閲記者として入社。1年後に報道記者に転身した。2020年から報道部長。芸術、福祉、経済・奉仕団体などを担当する。趣味は、かなりジャンルに偏りのある読書と音楽鑑賞。思考のそっくりな一人娘と趣味を共有している。

最新記事

日付で探す

住まいLOVE不動産 藤城建設 さわらび会 蒲郡信用金庫 光生会 虹の森
hadato 肌を知る。キレイが分かる。 豊橋法律事務所 ザ・スタイルディクショナリー 全国郷土紙連合 穂の国