【連載】サロン席|新アリーナ住民投票を終えて(愛知大学研究員 平野恵美子)

2025/08/05 00:00(公開)
木陰に立つ警備員。樹木が無ければ灼熱地獄(愛知大学構内)

 豊橋新アリーナ建設の是非を問う住民投票が7月20日にあった。前々市長の時から尾を引くこの問題は、豊橋市民を二分し全国的にも注目を集めた。結果は賛成10万6157票、反対8万1654票で、賛成が反対を上回り、事業は継続されることとなった。さまざまな問題が棚上げ状態のままという感は否めないが、新アリーナが建設されるという前提で、今後どうすべきか考えたい。

 

反対派との協力は不可欠

 

 まず、先の数字を割合で表すと、賛成6割弱、反対4割強である。これは公平に見て賛成派が圧勝というわけではなく、投票者の半数近くが反対したということになる。民主主義は多数派がやりたい放題にやっていいのではなく、少数派が多数派を監視し、行き過ぎた時はストッパーの役割を果たすという機能がなければならない。今回に限らず選挙の度に、多数派も少数派も、その自覚があるのかしばしば疑問に思う。

 

 全国的に見ると、成功したアリーナもあれば、失敗したアリーナもある。成功と失敗の要因はさまざまだが、失敗原因の一つに「地元住民の十分な理解が得られていなかった」というものがある。今回、反対派の中には気持ちを切り替えて建設に協力していく、という人も少なくないが、20年後に「それ見たことか」と言うのを待っているように見える人もいる。半数近い反対派に「敗者」として無視され排除されたと感じさせてはならない。むしろ反対派の意見をよく聞き、できるだけ事業に反映させることが新アリーナ成功のポイントであり、これまで反対派から支持を集めてきた市長の責務ではないだろうか。

 

 まだ工事も始まっていないのに「ノーサイド」と言うのは、一見公平なように見えて、実は強い者の側に利す。釈然としないが「子ども世代、孫世代に負担を残さないようないい事業となるようにしたい」という言葉に期待し、これをどう実現するのか見守りたい。

 

未解決のまま残された課題

 

 「賛成」か「反対」かの2択に「○(マル)」を付ける今回の住民投票に違和感を感じた人も多かったようだ。有権者は事業のメリットとデメリットについて十分な説明を受けたといえるだろうか。そもそも投票の目的は「多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・事業継続の賛否を問う」である。「豊橋公園の整備には賛成だが、アリーナ建設には反対」「諸問題が解決されるなら、アリーナ建設に賛成」など、単純化できない意見を多く聞いた。どちらの側も豊橋の街が活性化することを願っているのは間違いない。事前にもっと十分な議論が出来なかったのだろうかと悔やまれる。

 

 反対した人たちにその理由を聞くと「契約のプロセスが不透明」「周辺環境の悪化」などさまざまである。とりわけ周辺道路が両側とも一車線ずつしか無いため、深刻な渋滞が予想される。当初は自家用車の乗り入れを禁止する計画だったが、住民投票直前に事業者から「市役所の駐車場利用」「競輪場からシャトルバスで観客を輸送するパークアンドライド」の説明があり、参加者を困惑させた。これでは渋滞緩和にも、まちなかの活性化にもつながらない。

 

無視できない樹木のクールアイランド効果

 

 個人的には豊橋公園の樹木の保全が最も気がかりだ。完成予想図を見ると、50本近い木が伐採されることになる。だが毎日とんでもない酷暑である。毎年、最高気温の記録は更新され、これから猛暑はますますひどくなっていくだろう。市民の健康増進、豊橋公園の貴重な生態系など、守りたい理由は多々あるが、今は樹木の蒸散作用による冷却効果を、大勢の人に認識してもらいたい。木陰があるのと無いのでは大違いだ。

 

 この猛暑で人々は外出を控え、経済活動にも悪影響を及ぼしているという。メディアでは毎日、ヒートアイランド問題にどう対処するか論じているが、公園の樹木を伐採すれば、都市の気温は間違いなく上がる。

 

 公園の価値については残念ながら今回、全て書き切れないが、決して軽視できない。市や事業者は豊橋公園を利用する市民や周辺住民に丁寧に説明し、可能な限り彼らの思いを尊重したアリーナ建設をしてほしい。そうすれば、反対派から協力する人も増えるだろう。木の伐採はしばし待ってもらいたい。

少なくとも50年以上たつ豊橋公園内の遊具「子供の城」と豊かな緑。いずれも貴重な市民の文化遺産であり、保護を求めたい
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