東三河で地域活性化やユニークな活動に取り組む学生が増えている。注目しているのが豊橋技術科学大学建築・都市システム学系4年の井口思実さん(22)。新潟県長岡市の高専から3年次に編入した井口さんは、工学を学びつつ、人の内面に焦点を当てた「感情モクテル」というワークショップを企画運営している。
井口さんの活動は、学生向けイベント「火―Okoshi」への参加がきっかけだ。感情モクテルは「色で感情を表現する」ワークショップ。参加者は「今の感情」「幼少期」「死ぬ前」の三つのテーマで色を選び、モクテル(ノンアルコールカクテル)を作る。「ドリンクを作るだけでなく、選んだ理由を言語化し、共有する。そうすることで、その人の人生観に触れられる。僕自身が、人の人生を知りたいという想いが強いんです」と井口さんは語る。
もともと色を組み合わせることや、相手の考えを探ることが好きだった。過去のワークショップ体験も重なり、「五感で体験してもらうのが良い」と現在の形に行き着いた。当初は「気持ちを言葉で出せない人が、色でなら表現しやすくなるのでは」という狙いもあった。
活動を続ける中で課題に直面した。「何回開催しても『楽しかった』で終わってしまい、自分は何を目指しているんだろうと。事業として大きくしたいわけでもない。その目的を考えるのが一番大変でした」。悩み抜いた末、井口さんは「自分ができる範囲で、参加してくれた人の人生を知っていく」ことが自分のやりたいことだと再認識した。
活動のやりがいは、参加者の変化を実感する瞬間だ。「参加前はモヤっとしていた人が、ワークショップ後に明るい表情で『楽しかった』『来てよかった』と言ってくれる。その顔を見ると、やってよかったと心から思います」。参加者は学生だけでなく、社会人が6割を占めるという。
工学部で土木や建築を学び、研究室では金融を専攻するという異色の経歴を持つ井口さん。一見バラバラに見える学びが、人の内面を探求する活動につながっている。「今後は、自分のペースを大切にしながらも、『やってほしい』という声があれば、どこへでも届けに行きたい」
井口さんの活動は、これからも多くの人の心に、彩り豊かな対話の場を提供していくだろう。活動の詳細はインスタグラムで。
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Lirem創業者。2000年1月11日生まれ。山口県宇部市出身。2020年3月、宇部工業高等専門学校を卒業、同年4月、豊橋技術科学大学3年で編入、在学中の2021年10月にLiremを設立して代表取締役に就任。現在は起業家支援事業や事業会社のイノベーション促進に向けた研修プログラムを提供する。「火―Okoshi」も運営する。
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