【連載】若手秘書が見た永田町の現実〈3〉情報交換と町政は不可欠

2025/12/01 00:00(公開)
衆院第二議員会館(参院議員会館から筆者撮影)
衆院第二議員会館(参院議員会館から筆者撮影)

 秘書にとって、秘書同士のネットワークは仕事を回すうえで不可欠なものだと思う。議員会館では党派を超えて議員事務所を異動する秘書も多く、かつて同じ事務所で働いていた仲間が、現在では他党の秘書を務めていることも珍しくない。

 

 秘書同士は普段、議員送迎中の待ち時間での立ち話や年齢の近い秘書同士の飲み会、衆参両院にそれぞれ設置されている秘書会などで親交を深めている。また、議員の代理で出席した大会や行事などで顔を合わせれば、与野党を超えてお互いの近況や今の所属先を話し合うことも少なくない。こうした交流は勤続年数を重ねるほど強まり、議員本人同士では語りにくい本音や問題意識を、率直に交換できる場となる。

 

 ただ誤解してはならないのは、情報交換といっても、秘書が仕える議員事務所の内部情報を裏切る形で発信することは決してないという点だ。やり取りの中身はあくまでも「永田町全体の動き」や「陣営の空気」といった一般的な情報で、機微な内容をやり取りすることはほとんどない。

 

 しかし、議員同士の意思疎通がうまくいっていない場合などの有事の際は少し話が変わってくる。秘書同士の信頼関係の下、水面下で事実確認や認識の整理などの調整を行い、いざ議員同士が直接会った際にトラブルにならないように、あうんの呼吸で事前の地ならしをすることもある。だからこそ致命的な秘密が漏れることはなく、絶妙なバランスの中でネットワークは機能している。

 

 そしてこのネットワーク形成に最も貢献していたのが、旧派閥(政策集団)だともいえる。現在、自民党内の派閥は麻生太郎元総理が率いる「志公会」以外は解散している状況だ。しかし現在でも以前同じ派閥に所属していた議員と秘書は自然に連絡を取り合っている。世間からは派閥隠しというような批判を受けることもあるが、実際には団体が解散したとはいえ、人間関係がすぐに消えるわけではないため派閥を超えた個人的なつながりとして現在も残っており、かつての仲間と情報交換しているのが永田町の現実だ。

 

 我々が普段やり取りする情報は速報性が高いものもあり、耳にしてから数時間後に新聞やネット等で発信されることも少なくない。そして速報性が高い情報ほど、今後の政局に関するもので、とある議員の健康状態に関するものや議員事務所内のトラブルなどがある。永田町という刻一刻と状況が移り変わり、世論の関心に大きく左右される権力闘争の場では、情報をキャッチする能力、また真贋性を見極める力、そして最終的には入手した情報を生かす力が求められている。

 

 先日まで自民党では石破茂総裁の辞任に伴う総裁選挙が開催されていた。今回の総裁選はフルスペック方式で、国会議員と党員・党友票の合計590票で争われた。議員票を固めるだけでは勝利することはできないため、各陣営は世論や党員票をどう取り込むかが課題で、候補者によって地方視察を重視する姿勢やSNSでの発信の仕方などにも違いがあった。こうした方向性の決定にも際しても情勢を見極めるための情報が必要になるのだ。

 

 対立候補の動静にも目を光らせることにより陣営同士の神経戦は激烈を極め、どの議員が誰を支持しているのか、まだ態度を決めていないのは誰かなど、票読みと切り崩しのための情報が日々飛び交うなかで、最後まで態度を表明しない議員や、支持を約束しながら裏切る議員もいるため、票読みは難しい。

 

 そこで重要となるのが秘書同士のネットワークである。情報の経路は「議員同士の会話」「番記者を通じた報道」「秘書同士のやり取り」の主に三つがあり、あうんの呼吸で情報交換する秘書同士の会話は貴重な情報源になる。これまでの総裁選挙を振り返ると派閥の領袖が決めた候補を一致団結して応援し、論功行賞で自派閥の議員を大臣ポストや委員長ポストで優遇するという状況だった。しかし、多くの派閥が解散し、無派閥議員が大勢を占める今回の総裁選では、議員一人ひとりが「なぜこの候補者を応援するのか」自らの支援者に説明をしながら支持を広げなければならない。議員と秘書は日々変わりゆく情勢を各人の独自の情報網を駆使して情報を入手し、決断の材料を提供するのだ。

 

 4日に新しい自由民主党総裁に高市早苗氏が就任した。連立拡大が議論される今、政権に関わる政党が増えるほど議員同士の交流はもちろんのこと、秘書同士のネットワークの重要性も一層高まっていると私は感じる。

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奥野蓮

1999年9月19日生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒。元自民党大阪府連学生部長。19年参院議員、松川るい大阪事務所入所。22年から東京事務所勤務。趣味は飛行機(写真・搭乗・航空無線)

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