東三河エリアで、地域活性化やまちづくりに情熱を注ぐ若者が増えている。その一人が田原市出身で国学院大学観光まちづくり学部4年の鈴木大輔さん(22)だ。現在、関東の大学に通いながら、自身の原点である東三河と、活動拠点である静岡県島田市を行き来する日々を送っている。
鈴木さんの活動の根底には、幼少期の温かくも切ない記憶がある。田原市で生まれ、祖父が営む豊橋市の喫茶店で多くの時間を過ごした。「おかえり」と地域の人々が迎えてくれる、人のぬくもりに満ちた場所。しかし、成長と共になじみの店が減り、景色が変わっていく現実に直面する。「育ててもらった恩返しとして、地域のために何かしたい」。その焦燥感にも似た使命感が、彼を日本初の「観光まちづくり学部」の一期生へと突き動かした。
高校進学で15歳にして地元を離れた鈴木さんは、大学の授業を機に島田市で学生団体を設立。実践的なまちづくりのスキルを磨いてきた。しかし、就職活動や卒業が迫る中で「やはり東三河を諦められない」という思いが再燃する。「学生という特権がある今だからこそ、失敗を恐れずに飛び込める」。そう決意した彼は、東三河の起業イベント「火―Okoshi」「東海学生アワード」へ参加し、再び地元との接点を持ち始めた。
その道のりは平坦ではなかった。15歳で東三河を離れた自分が「本当に地域の人々を巻き込みながらまちづくりができるのか」と自問自答することも多くあった。だが、鈴木さんは逃げなかった。何度も足を運び、泥臭く対話を重ねる中で、挑戦を支えてくれる地元企業や大人の存在に気づく。「一度外に出たからこそ分かる価値」と「外からの視点」は、次第に彼の唯一無二の武器へと変わっていった。
「日本一まちづくりをしたい人が集まる町にしたいんです」。鈴木さんが描くビジョンは明確だ。観光客誘致や移住促進だけではない。「地域で何かを始めたい」という熱意ある若者と、地域住民をつなぐ「ハブ」になること。かつての自分のように、思いはあるが一歩踏み出せない若者が、挑戦できる環境をつくりたいと語る。「外部の人間が関わることで、地域のしがらみを超えて解決できる課題がある」。その言葉には、外と内を知る彼ならではの説得力があった。
大学卒業まで残りわずか。鈴木さんは学生生活の集大成として、東三河で若者が集まるイベントの開催を計画している。「社会人になっても、自分の人生をかけてこの地域に関わり続けたい」。一度は離れたからこそ深まった愛着と覚悟を胸に、鈴木さんは東三河と若者をつなぐ架け橋として走り続ける。その姿は、地域に関わる私たち大人にも、忘れていた熱いものを思い出させてくれた。
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Lirem創業者。2000年1月11日生まれ。山口県宇部市出身。2020年3月、宇部工業高等専門学校を卒業、同年4月、豊橋技術科学大学3年で編入、在学中の2021年10月にLiremを設立して代表取締役に就任。現在は起業家支援事業や事業会社のイノベーション促進に向けた研修プログラムを提供する。「火―Okoshi」も運営する。
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