国会中継やニュースでは、委員会室で大臣や議員が答弁し、質疑を交わす場面がよく映る。しかし、その席に議員が座るまでに、議員や事務所間で細かな調整が行われていることは、あまり知られていない。今回は、衆議院の委員会運営を陰で支える「差し替え」の文化について書いてみたい。
衆議院議員は465人いるが、その多くが複数の委員会を兼務しているため、同じ時間帯に別の委員会が重なることが多々ある。そうなった場合、所属議員本人が出席できない委員会には、同じ会派の別の議員に差し替える形で出席してもらわなければならない。そして、その差し替えを探すのも議員事務所の大切な仕事の一つである。
私が仕える議員も、総務委員会、財務金融委員会、消費者問題に関する特別委員会の三つに所属している。今国会が始まってまだ1カ月ほどだが、この間だけでも総務委員会と財務金融委員会の日程が重なり、3回ほど他の先生に差し替えをお願いする場面があった。委員会は本会議ほど大きく報じられないことも多いが、法案や政策の中身を詰める重要な場である。本人が出られないので欠席することは許されない。
意外と知られていないのは、差し替えが単なる「代理出席」ではなく、差し替えをする場合、基本的には、差し替え元の議員がその委員会の委員をいったん辞任し、差し替えを受けてくれた議員が補欠として委員になるという手続きを踏むことだ。普段は現場で「差し替え」と呼んでいるが、実際には正式な委員の異動手続きとして処理されている。
また、国会の委員会は事前に日程が決まっているものではなく、委員会開会日の3日前や前日に急きょ開会の連絡が来ることも珍しくない。委員会の進み具合がどういう状況にあるかや、野党との交渉状況などを事前に見極めながら差し替えを依頼する先生を探さなければならないため、秘書の力量が問われる仕事の一つでもある。
こうした差し替えには、お作法もあり、まず基本は、当選同期の議員にお願いをすることになる。当選同期の議員同士は距離感も近く、お願いもしやすい。ただ、もちろん相手方にも委員会や来客対応、地元日程などがあるため、必ずしもすぐ決まるわけではない。どうしても見つからない時は、少しずつ期数が上の先生方にもお願いしていく。また、差し替えをお願いする際は、あまり長時間拘束しないように配慮もする。委員会は始まる時間が決まっていても、終わる時間はその日の質疑や議事の流れによって前後するため(長い場合は午前午後で7時間)、最初から最後まで1人の先生にお願いするのではなく、場合によっては複数の先生にお願いして、リレーのようにつないでいくこともある。表から見れば委員が少し入れ替わっているだけだが、その裏ではかなり細かな調整が行われている。
さらに、この世界には「貸し借り」の感覚がある。こちらがお願いすることもあれば、逆にお願いされることもある。だからこそ、差し替えを受けられる時には積極的に受ける。そうした積み重ねが信頼関係につながり、いざ自分たちが困った時に助けてもらえることになる。秘書の仕事は、資料作成や政策調査だけではなく、人間関係の積み重ねでも成り立っているのだと感じる瞬間である。
この差し替えのあり方には、衆院と参院の違いもある。参議院自民党では差し替えを自民党国会対策委員会が調整してくれるが、衆議院自民党では各議員事務所が自分たちで探すのが基本だ。これだけ聞くと、衆院の国対は何もしていないのかと思われるかもしれないが、そうではない。衆議院自民党は所属議員数が参議院よりはるかに多く、すべての差し替えを一元的に調整するのは、事務局機能の面から見ても現実的ではないのだと思う。
表に見える委員会の論戦は、こうした見えない実務に支えられている。議員が発言し、政府と向き合うその裏で、秘書は予定表をにらみ、関係事務所に電話をかけながら、委員会運営に支障が出ないように日々調整を続けている。差し替えとは、ただの応援要員探しではなく、国会審議を止めないために、現場が知恵と信頼関係で支えている仕事の一つなのである。
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1999年9月19日生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒。元自民党大阪府連学生部長。19年参院議員、松川るい大阪事務所入所。22年から東京事務所勤務。趣味は飛行機(写真・搭乗・航空無線)
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