上海市静安区、南京西路エリアにある「張園(ジャンユエン)」は、1882年にさかのぼる歴史街区を保存・再生した、上海に現存する最大級の石庫門(シークーメン)建築群だ。2022年に先行開業した西側エリアの路地には、海外高級ブランドや体験型の店が立ち並ぶ。目を引くのは、単なる新店ではなく、世界初、アジア初、中国初などを掲げる店舗や展示の多さだ。有力ブランドを50以上集め、入居率は9割を超えた。
こうした新製品やサービスの初公開、初出店を束ねた動きを、中国では「首発経済(デビューエコノミー)」と呼ぶ。各都市がその「初」を取り込もうと競い合う中、先頭を走るのが上海だ。上海市商務委員会によれば、市内では2025年に各種の1号店が1093店生まれた。多くは「上海で初めて」の店だが、世界初・アジア初・中国初など、より広い範囲で「初」となる店も16・8%を占めた。
行政の後押しも厚い。国レベルでは昨年、財政部・商務部が約50都市で消費の新業態を支える2年間の試行を始め、首発経済のサービス体系づくりも支援対象に据えた。上海も今春の「首発上海」関連施策で、新製品の発表拠点や、初出店・旗艦店が集まる地区の整備などに最高100万元の支援枠を示した。張園には専用型の保税倉庫も置かれ、輸入新商品を「展示品」から「販売品」へ素早く切り替えられる。
狙いは店舗数を増やすことだけではない。目の肥えた消費者と速い物流が集まる中国市場で先に試し、世界に通じる商品をここで磨く―そんな発想の企業が増えている。上海発の高級カシミヤブランド「沙涓(Sandriver)」は、張園に旗艦店を構えつつ、パリの高級百貨店ル・ボン・マルシェに入った初の中国ブランドでもある。海外のブランドが上海に集まり、上海のブランドが世界へ出ていく。流れは、もはや一方通行ではない。
もっとも、「初」で話題を集めても、継続的な売り上げや街のにぎわいに直結するとは限らない。似た体験型店舗が増えれば、新鮮さは薄れていく。それでも、世界の新商品がまず上海で姿を現す流れは当面続きそうだ。次の「初」はどこから来るのか。その答えを探すように、人々は今日も張園の路地を歩いている。
購読残数: / 本
週間ランキング
日付で探す