浜名湖カッターボート転覆事故「2時間30分の真実」

2021/02/12 00:02(公開)
出版した奥宮さん㊧と西野友章さん=東愛知新聞社で
 2010年6月に起きた「浜名湖カッターボート転覆事故」=ことば=から10年間の記録をまとめた「2時間30分の真実」が出版された。転覆事故に関するまとまった書籍は初めて。今なお、子どもの命を預かる学校での事故や事件は絶えない。少女の命から得た貴重な教訓を世に問う一冊だ。

 著者は塾講師で豊橋市在住の奥宮芳子さん。事故で亡くなった同市立章南中1年生の西野花菜さん(当時12歳)の父友章さん(61)が、取材に全面協力した。
 全編が、奥宮さんの目線でつづられる。本編の書き出しは、名古屋から豊橋の自宅に戻る途中の電車内の電光掲示板で、事故の一報を知る場面で始まる。その後「全員救助」という字幕が流れ、ほっとしたが、翌朝の新聞は「1人死亡」に変わっていた。
 1カ月後に市議会でも問題になり、その様子が報じられる中「なぜ花菜さんは、2時間半も転覆したボートに閉じ込められていたのか」という疑問を持ったことがすべての始まりだったという。本のタイトルもここから取った。
 やがて市議の仲介で友章さんと初めて会った。真相解明を求める友章さんに弁護士を紹介した縁で、打ち合わせや会合に毎回、出席するようになった。友章さんも毎回、打ち合わせの詳細な報告を奥宮さんに送るようになった。最終的には段ボール箱四つ分の書類がたまったという。ただ、これらをまとめて本を書くことまでは当時は考えていなかった。
 「責任は三ケ日青年の家にある。市も被害者」という市役所の当事者意識の無さ。進まぬ真相解明。友章さんは市長に要望書を、議会には請願を出す。同年11月には街頭で署名を集めた。奥宮さんも、賛同を求めてマイクで呼びかけた。
 そして12年4月の提訴、半年後の和解へと進む。同時にあった海難審判、刑事裁判もすべて傍聴した。冒頭の「2時間30分」は、国土交通省運輸安全委員会の報告書(同年1月)によって解き明かされている。
 エピローグでは、行政の隠蔽(いんぺい)体質を厳しく指摘しつつ、情報を共有しないことによって、学校で子どもの命が失われている現状に警鐘を鳴らす。そのうえで、教育現場で日々、子どもたちのために頑張っている教職員への激励で結んでいる。
 刑事裁判を終えた頃から本書の執筆を考えたという奥宮さんは「友章さんが裁判を通して何を求めているのかを明らかにしたかった。本を読んで真実を知ってほしい」と話す。
 一方の友章さんは「奥宮さんに感謝している。事故から今年で11年、風化が感じられる。花菜の命で得た教訓を、本書からくみ取って」と語った。
 デザインエッグ社、A5判172㌻、1980円。大手通販「アマゾン」で販売中。
【山田一晶】


ことば
浜名湖カッターボート転覆事故
 2010年6月18日、浜松市北区の浜名湖で起きた。静岡県立三ケ日青年の家の野外教育活動に参加していた豊橋市立章南中生徒と教員計20人が乗った全長約7㍍の手こぎボートが転覆、西野花菜さんが死亡した。天候が悪化する中でのボート実習で13年2月、静岡県警は同中の校長と、青年の家所長らを業務上過失致死容疑で書類送検。静岡地検が元所長のみを在宅起訴し、静岡地裁で有罪判決が確定した。豊橋市は6月18日を「豊橋・学校いのちの日」と定め、章南中をはじめとする各校で、集会などさまざまな活動をしている。
小学校の卒業式での花菜さん(西野さん提供)
「2時間30分の真実」の表紙
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