江戸中期に松尾芭蕉の俳風を広めた俳人蝶夢(1732~1795)の研究で、豊橋技術科学大学の中森康之教授らの共著「蝶夢全集」の続編(和泉書院)が「第77回芭蕉祭」(伊賀市、芭蕉翁顕彰会主催)で文部科学大臣賞を受賞した。芭蕉の持つ「旅の詩人」「わび・さび」のイメージを定着させた蝶夢の豊富な関連資料をまとめた。
2022年刊行の俳文学研究書から、最優秀の著書に贈られる。蝶夢の業績と歴史的意義を説いた全集の正編(13年)に続き、数多くの書簡や蕉風俳諧を全国に広めた足跡などを納めている。
与謝蕪村と江戸中期の俳諧を支え、初の芭蕉全集「芭蕉翁絵詞伝」でカリスマ的なイメージの定着とともに「蕉風復興運動」を全国展開した。
今回の続編には、知り得る限りの関連資料を網羅したという。477通の書簡など充実した資料は選考委員から「圧巻」の評価を受け、芭蕉の根源を見つめ直す画期的な研究と高評価された。
研究は共著者の田中道雄氏が1970年代に始めた成果を土台に、2008年頃から中森教授らが加わった。
江戸期の俳諧研究は芭蕉から蕪村を経て、小林一茶へと続く著名作家のみに焦点が当てられた。従来の研究では一茶以降の江戸期の俳諧と近現代俳句とには連続性はないとみられていたが、今回の研究で連なっていることが分かったという。
中森教授によると「50年前から一部の研究者は蝶夢の果たした役割に気付いていたが、存在が忘れ去られ、作品を探す困難さから取り組む研究者もいなかった。蝶夢の全貌が明らかになり、存在意義や俳諧史が大きく変わる」と説いた。
さらに「一部の著名な作家に注目が集まる狭い意味ではなく、俳諧は多くの人の楽しみだったことが明らかになった。文化としての俳諧の存在意義をとらえ直すことができた」と研究上の意義を強調した。
【加藤広宣】