豊橋市駅前大通1の「旧中部コインビル」にオープンした私設図書館「ひとなる図書館」が人気を集めている。書棚の一区画を有料で借りた「本棚オーナー」が、推薦図書を自由に配架し貸し出す仕組みで、館内には個性豊かな本が並ぶ。「本をきっかけに偶然的な出会いが生まれる」と好評で、開始して1カ月半で50人以上のオーナーが集まった。図書館を手掛けた金券ショップ「中部コイン」の桜田純一さん(57)は「さまざまな人が交わる拠点に」と期待する。
地元出身の桜田さんは、ここで家業の金券ショップ「中部コイン本店」を営んでいた。だが、新型コロナウイルス禍で旅行需要が激減し、2020年4月に店を閉めた。「気づくと周りの店もシャッターを閉じ、いつもにぎわっていた駅前が閑散とし、寂しくなった」と振り返る。
「自分の経験を駅前エリアの活性化に生かしたい」と、桜田さんは「シェア型図書館」に注目。23年1月に、先行事例の「みんなの図書館さんかく」(静岡県焼津市)を見学し、代表の土肥潤也さんに事業モデルや運営方法などを聞きに行った。親子や友達、夫婦などさまざまな人が話す姿を見て「豊橋でも実現したいと思った」と決意した。
リノベーションは、市主催のワークショップで出会った建築士の黒野有一郎さんらと11月にスタート。館内の掃除や本の整理、棚の組み立てなどをして、3月末にオープンした。
1階には30㌢四方の本棚が60個並び、それぞれオーナーの個性やこだわりがにじむ。建築や子育て、人気漫画に韓国アイドル、街づくりなど異なるジャンルの約600冊が並ぶ。2階には、椅子に座りながららゆっくりと読書や自習ができるスペースを設けた。
オーナーは「店番」をする権利を持ち、来場者に対応する。月額2000円。本を借りる場合は初回のみ登録料300円がかかる。貸出期間は1カ月、一度に2冊まで借りられる。
開始当初からオーナーで同市神野新田町の30代女性は「昔から古本屋で働きたいと思っていたので店番で夢がかなった。オーナーの趣味を知ることができるのも楽しい」と笑顔を見せた。竹本甲歩さん(28)は、所属する団体で制作した「南栄マップ」など6冊を並べた。「自分の好きな店を知ってもらい、実際に訪れてほしい」と話す。
最近では、「優しい日本語講座」「絵本セラピー」などのイベントを館内で開いている。「ひとなる」には「関わる人と一緒に成長する施設に」との思いが込められている。桜田さんは「理想の街は人それぞれ。自分で暮らしやすいように街をアレンジしていくことが大事。街に関わる第一歩のために、この場所を活用してほしい」と語る。
日曜午後3~6時。月曜、水曜、土曜の午後は不定期。問い合わせは桜田さん(090・4465・5003)へ。
きょう25日、まちなか図書館イベントに桜田さん登場
同町の「まちなか図書館」で25日午後2時から開かれる「館長のいま会いたい人」に桜田さんが登場。立ち上げの思いやオープン後の様子を話す。参加無料。
【北川壱暉】
オーナーが選んだ個性豊かな本が配架されている
講座を楽しむ参加者(提供)