豊橋のジャズシンガー琳佳さん安ど
豊橋市在住のジャズシンガー琳佳さんは愛猫家だ。5匹と自宅マンションで暮らしていたが今年5月、1匹の雄が家の外に出てしまった。懸命の捜索の結果、52日目の今月19日に保護できた。琳佳さんは猫を飼う人に「逃さないようにして。そして逃げ出しても決して諦めないで」と呼び掛けている。
猫の名前は勘助。茶トラで生後1年少し。昨年4月、名古屋市内をさまよっているところを保護され、SNSでそれを見た琳佳さんが引き取った。
5月30日午前6時すぎ、いつものように猫たちに餌をやろうとしたところ、1匹だけ姿が見えなくなっていた。驚いて探すと窓が1カ所、10㌢ほど開いていた。夜のうちに外へ出てしまったらしい。
呆然(ぼうぜん)としていたが、気を取り直してネットで「猫探偵」と呼ばれる業者を見つけた。料金は3日間で21万円。少し考えたが、仕事もあり、猫の捜索にすべての時間は割けない。午前8時に申し込んだ。
夕方に豊橋市に着いた業者は猫がいそうな場所を探し、さっそく近隣住宅のウッドデッキの下に潜り込んでいる勘助を発見、映像をSNSで送ってきた。捕獲器を設置し、監視カメラでその姿を追った。だが、なかなか捕まらない。3日間の契約は終わり、業者は帰った。
続いて手伝ったのが、地域猫活動を続ける動物福祉団体「ハーツ」だった。改めて大量のチラシを作り、琳佳さんの自宅周辺にポスティングしていった。捕獲器もカメラも貸してくれた。
勘助は最初の場所から移動して、近所の廃工場に潜り込んだようだった。カメラを仕掛け、毎朝餌を届けた。ある時などは、すぐ目の前の屋根の上にいた。「カンちゃん」と声を掛けたが、すっと見えなくなった。やがて、カメラにも姿が映らなくなった。
週に一度、ラジオパーソナリティーの仕事がある。コンサートも7月にあった。「別れの歌などを歌っていると、カンくんのことが頭をよぎって涙が出た」と琳佳さん。スマートフォンの待ち受け画面は勘助だ。開くたびに、ひもじい思いをしていないかと不安になった。日課だった夫の弁当作りもできなくなり、母は精神的な落ち込みを心配した。「諦めて、スマホの画像も消そう」。そんなことも考えた。
多くの励ましに感謝
だが、猫が行方不明になっていることを書いた新聞の折り込みチラシを6月下旬に配ってもらうと、それを見た人から「頑張って」「諦めないで」という電話がかかってきた。よく当たるという占い師を紹介してくれた人、うせ物が出てくるという神社を教えてくれた人もいた。「できることは全部やった」という琳佳さん。そして、最大の励ましはハーツ代表の古橋幸子さんの「大丈夫。必ず帰って来る」という断言だった。
今月18日、見知らぬ人から電話があった。琳佳さんの家から2㌔離れたところに住む男性で「ずっと餌やりをしているが、何日か前から茶トラが来るようになった」と言った。折り込みチラシに猫の話が載っていたのを思い出し、古新聞の中から探し出して電話してきたのだという。
翌19日午前6時15分にケージを持って行くと、男性は猫を背中から抱き抱えるようにして保護していてくれた。間違いなく勘助だった。すぐ病院に運んだがけがはしておらず、体重は800㌘増えていた。餌には困っておらず、走り回って筋肉がついたようだ。皮膚病になっていたので治療してもらった。
家に戻って1週間になる。当初は少し興奮気味で夜中に鳴いたこともあったが、今はすっかり落ち着いたという。琳佳さんは「多くの人のおかげです。本当に感謝しています」と話した。
【山田一晶】
脱走3日目。近所にいるところを猫探偵のカメラが捉えた(同)
今月あったコンサートを本紙にPRする琳佳さん。笑顔だが、精神的に限界だったという(6月12日撮影)