豊橋市のランドマークの一つで、通称「水上ビル」が開業から60年を迎えた。ビル内の大豊商店街に生きる人々を未来に残そうと、市美術博物館で21日、写真展「水の上の店主たち」が開幕した。企画した編集者の北川裕子さん(50)は「店主が主役の商店街の魅力を感じて」と参加を呼び掛けている。
商店街の始まりは戦後の復興期。豊橋空襲で焼け野原となった街を立て直そうと、露天商のまとめ役だった山本岩次郎氏らが資金を出し合い、1950年に58店舗の木造雑居からなる「だいほうマーケット」が誕生した。その後、老朽化が進んだため移転することになったが、場所が見つからなかった。そこで、苦肉の策で牟呂用水の上に建設されたのが「水上ビル」だ。
70年代までは問屋街としてにぎわいを見せていたが、車社会の到来で衰退。2000年代になると、空き店舗が目立つようになった。市内でライター活動をしていた北川さんが商店街と出合ったのもその頃。ある雑誌で黒野有一郎理事長(57)にインタビューしに自宅兼事務所を訪れると、北欧風の木のいすや机が並ぶおしゃれな空間が広がっていた。「建物をよみがえらせてくれる黒野さんに惹かれてこれから若者が集まって来るんだろうな」。何となくの予感があった。
それから数カ月後、北川さんに黒野理事長からタブロイド紙発行の話が舞い込んできた。「ノスタルジーという切り取り方ではなく、かっこよく商店街を撮ってほしい」という難しいテーマだった。「『かっこよさ』をどう伝えれば」と悩んだ末、白羽の矢を立てたのが仕事仲間で、当時は都内で男性のファッション誌を担当していた中西一朗さん(52)さんだった。「彼の感性と商店街を組み合わせたら面白い」と感じていたという。
15年冬に撮影。シャッター街を前に、中西さんは「この街をどう撮ったら」と頭を抱えたという。「ラフもないので、仕事の仕方などで衝突しましたね」と振り返る。
だが、徐々に商店街の魅力に取りつかれていく。町内の練り物屋に写真を撮りに行ったときのこと。中西さんは撮影対象と雑談しながらレンズを向けるが、「店の夫婦の掛け合いがすてきだと感じた。距離が近くなったり、遠くなったり、実家に帰ってきた感覚。コンクリートの冷たい建物と人の温かみのギャップが面白いと感じた」と話す。それを入れた第1号の「大豊ジャーナル」を見て、2人は「いける」と手応えを感じた。
今回の写真展は「店主」がテーマ。北川さんは「これまでは商店街内の人にしか伝えられなかったけど、市内外の人に商店街の『かっこよさ』を伝えたい」と力を込める。中西さんは「半世紀以上も続く店主のドラマを感じてほしい」と語った。
▼写真展について詳しくはこちら
大豊商店街60周年記念写真展「水の上の店主たち」豊橋美博で21日から
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1998年浜松市生まれ。昔からの夢だった新聞記者の夢を叶えるために、2023年に入社した。同年からスポーツと警察を担当。最近は高校野球で泥だらけの球児を追いかけている。雨森たきびさん(作家)や佐野妙さん(漫画家)らを取り上げた「東三河のサブカルチャー」の連載を企画した。読者の皆さんがあっと驚くような記事を書けるように日々奮闘している。趣味はプロ野球観戦で大の中日ファン。
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