京都市中京区の「京都国際マンガミュージアム」で、戦争漫画を多角的に紹介する「マンガと戦争展2」が開かれている。戦後70年の2015年に同館で開かれた企画の続編で、戦後80年を迎える現在の視点を新たに加えた。企画したのは、豊橋市出身で京都精華大学国際マンガ研究センター特任教授の伊藤遊さん(51)だ。
伊藤さんの戦争と漫画の原点は、子ども時代にある。読書家だった父の本棚には、文学作品と並んで多くの漫画が並んでいた。「『キン肉マン』を読んだ後に、マニアックな漫画雑誌『ガロ』を読むような両極を行き来する読書をしていた」という。中学時代になると市内の古本屋に通うようになった。水木しげるの戦記マンガに出会ったのはこの頃だ。「一つの作品にはまったことはなく、複数の作品を俯瞰(ふかん)して、時代背景を調べるのに興味があった」と振り返る。
その後、筑波大学第一学群人文学類に進学し、「暮らしや価値観がどう記録されてきたか」の民俗学を学んだ。06年から京都精華大学国際マンガ研究センターに所属し、漫画研究の第一人者として活躍している。戦後70年の15年に「何かできることはないか」と、「はだしのゲン研究会」で一緒に活動していた近代思想史が専門の同大教授の吉村和真さんと「マンガと戦争展」を企画。国内外6会場を巡回し、反響を呼んだ。
それから10年、パレスチナ自治区ガザやロシアが侵攻を続けるウクライナの情勢など、「戦争がより身近になった」と指摘する。続編では、前回の六つのテーマに加え「外国の戦争」「食」「マンガの表現」「新・沖縄」という四つを新設し、計40作品を紹介している。テーマごとにカーテンで区切られ、めくると中に複製された漫画のページが現れる工夫を凝らした。展示作品はいずれも館内で読める点も特徴だ。「漫画は読者との対話で成立するメディア。展示を見て来館者が考えるきっかけになるように構成した」と説明した。
「戦後80年」と聞けば、終わった過去という印象を持つ人が多いが、伊藤さんは「戦後は終わっていない」と力説する。「近年の戦争漫画では、第二次世界大戦よりも終戦直後や占領期を舞台にした作品が目立つ。戦後が続いているという感覚が根強くある」と分析する。米軍基地問題を扱った「ゴルゴ13 琉球の羊」や現代の沖縄と台湾を描いた高妍(ガオ・イェン)さんの「隙間」など、沖縄をテーマにしたのも「戦争を今も続く問いとして投げかけたかった」からだ。
もう一つの柱が外国の戦争だ。アート・スピーゲルマンの「マウス」やジョー・サッコの「パレスチナ」、ウクライナの少女が描いた4コママンガ「ウクライナのあかりちゃん」などを取り上げている。「いまウクライナやパレスチナで起きていることを遠い世界の話ではなく、自分たちの戦後と地続きのものとして考える必要がある」と力説する。
20年代はジェンダーやフェミニズムにまつわる漫画が増えた。「戦争漫画は即時性の高いメディアだ。戦争をどのように描いてきたか、戦争体験者が少なくなるなかで、戦争の記憶の継承にこれからどう向き合うべきかを考える契機にしてほしい」と呼び掛ける。
会期は25日まで。観覧料は無料だが、同館への入場に1200円がかかる。
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1998年浜松市生まれ。昔からの夢だった新聞記者の夢を叶えるために、2023年に入社した。同年からスポーツと警察を担当。最近は高校野球で泥だらけの球児を追いかけている。雨森たきびさん(作家)や佐野妙さん(漫画家)らを取り上げた「東三河のサブカルチャー」の連載を企画した。読者の皆さんがあっと驚くような記事を書けるように日々奮闘している。趣味はプロ野球観戦で大の中日ファン。
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