【連載】東三河と国際法<2> 社会的弱者の積極雇用と三方よしの経営

2025/01/27 00:00(公開)
豊橋障害者就業・生活支援センター(提供)

「ビジネスと人権」と社会的弱者

 

 前回記した通り、すべての企業において、ビジネスと人権の観点から、社員や関係者の人権を尊重することが求められる。これを面倒な負担と捉えずに、ビジネスチャンスとする経営が推奨される。

 

 人権の尊重が特に重視されるのは、さまざまな差別の対象とされてきた社会的弱者である。旧ジャニーズ問題では、ジャニーズJr.の「子ども」の人権が注目を集めた。

 

 昨年10月の国連女性差別撤廃委員会の第9回対日総括所見では「女性」であると同時に、「アイヌ」「部落」「在日朝鮮、韓国人」「障害者」「性的少数者」「移民」である人々に対する雇用などにおける複合差別に懸念が示された。

 

 そのほか、「高齢者」「元受刑者」など弱者の要素が重なるほど、雇用が敬遠される傾向がある。

 

社会的弱者雇用の利点

 

 社会的弱者は社会的無能力者ではない。むしろ、女性の繊細さをはじめ、自閉症者の集中力や外国人の人脈、語学力などは、会社経営の武器ともなる。

 

 障害者雇用促進法の改正で2026年7月以降は、従業員の2・7%以上の障害者雇用が義務となる。積極雇用により、企業価値や評価を向上させる経営へのシフトが検討されるべきだろう。労働者不足に悩む企業は逆転の発想の雇用戦略で、二重にも三重にも得をする。

 

社会的弱者雇用とSDGs

 

 SDGs(持続可能な開発目標)は、端的に言えば社会貢献活動になる。社会のためになる活動をすれば、17目標のいずれかに該当する。

 

 直接「人権」に言及する目標はないが、SDGsの原文を含む15年の国連総会決議を読むと、「人権の尊重はすべての目標の基礎となる大目標である」ことが分かる。

 

 性別や障害、民族などの少数者の経済的差別の防止に関する「SDGsターゲット10・2」は、ビジネスと人権に基づく社会的弱者の雇用が重要な役割を果たす。

 

三方よしの経営の推奨

 

 SDGsは、必ずしもボランティア的に取り組む必要はない。社会貢献を企業利益とする姿勢の方が、取り組みの持続性を維持しやすい。

 

 こうした考えは「売り手よし、買い手よし、世間よし」という、楽市楽座を基礎とする近江商人の「三方よし」の商売と共通する。すなわち、企業▽顧客▽社会―が得する一石三鳥のビジネスである。

 

障害者雇用による三方よし経営

 

 例えば、自閉症者は対人関係が苦手な一方、一つのことに強いこだわりをもって取り組める傾向がある。

 

 東三河で盛んな農工業などにおいては、対人関係を最小限にとどめるなどの一定の労働環境を整えれば、自閉症者が健常者以上の成果を上げる潜在能力を発揮できる。

 

 こうした障害者雇用戦略からは、人手不足解消▽品質向上、納期短縮▽障害者支援-という「三方よし」経営の導きを得ることができる。

 

合理的であたたかい配慮

 

 日本は13年の「障害者差別解消法」制定などを経て、14年に「障害者権利条約」に批准した。同法の改正で24年からは、過度な負担とならない範囲で障害者の要望に応える「合理的配慮」が、事業者の義務となった。

 

 三方よしの障害者雇用にあたっては、SDGsの理念を尊重する団体に研修や情報提供を依頼するのがいいと考える。東三河に対応する施設は「県障害者職業センター豊橋支所」と「豊橋障害者就業・生活支援センター」がある。

 

 障害の種類や程度、特性などを理解し、要望がなくても障害者にあたたかく配慮する一歩進んだ環境づくりが、企業の発展と住みよいまちづくり双方に資するものと考える。

 

執筆者の紹介

 

たずのき・しんや

 熊本県出身。2005年3月、早稲田大学政治経済学部政治学科卒。08年3月に早大院法学研究科修士課程を修了。15年4月、愛知学院大学法学部の専任講師。20年2月から現職。専門は国際法と国際人道法、安全保障法。

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