私が担当している「リベラルアーツ入門(a)」のクラスでは、「哲学対話」という手法を使って、学生のコミュニケーション能力を育てています。哲学と聞くとちょっとむずかしそうなイメージを持つ方も多いと思いますが、哲学対話について言えば、誰でも簡単に参加することができます。
私は豊橋技術科学大学だけではなく、豊橋駅前にある「em CAMPUS」、「田原市図書館」、「ABT豊橋ブラジル協会」などでも哲学対話を行っています。東京都にある保育園では4~5歳児とも「てつがくたいわ」をしています。哲学対話は、誰でも気軽に参加できる話し合いの場なのです。
哲学対話はちょっと変わった空間をつくりだします。私がいつも学生たちに繰り返し言っているのは、「答えを急がない」、「分からなくてもいい」、「黙っていてもいい」という三つの原則です。学校の授業や受験勉強では、とにかく早く問題を解いて、答えに辿り着くことがよしとされます。分からなかったり、黙っていたりすると、もっと勉強しなさい、と、叱られますね。でも、哲学対話では、答えがよく分からないという状態が許されます。
普通、勉強するときには、答えが決まっていることがほとんどです。だから、問題を解き終わったら、解答を見ることがつい癖になりがちです。しかし、私たちが現実に目の当たりにしている多くの問題には明確な答えがありません。たとえば「人間とAIの関係はどうあるべきか」、「原子力をどう扱うのが適切か」、「クローン技術で人間を生み出してもよいのか」…などもそうです。
技術者はこれらの問いと無関係ではありえず、むしろ、専門家という立場から意見を表明することが求められています。それだけではありません。ともすれば技術が重大な被害をもたらしかねない諸問題について、市井の人と対話することが社会の側から要請されているのです。しかし、技術者が「答え合わせ」に慣れてしまっていたとしたら、むずかしい問題に直面した途端、嫌になって投げ出してしまうかもしれません。
「リベラルアーツ入門(a)」で学生たちが哲学対話を学ぶのは、異なる価値観を持った人びとが、簡単には答えの出ない事態に耐えながら共に考え、互いの違いを越えて合意をつくっていくための態度と方法を身につけるためです。だからこそ「答えを急がない」、「分からなくてもいい」、「黙っていてもいい」という3原則が大切なのです。
たとえば、「自由と幸福ってどっちが大事なの?」、「死刑は悪いことなのか?」、「なつかしさの本質とは何か?」といった問いを、全員で考え、言葉に表していきます。これらの問いには定まった答えがありません。参加者は、そもそも何が問われているのかを互いに確認したり、自らの体験を反省したりしながら、少しずつ考えを深めていくのです。こういう、ちょっとしんどい試行錯誤の先に、技術者が市民と対話する明るい未来がある。私はそう信じています。
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豊橋技術科学大学准教授
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