「すごいんです。ぜひ見てください」。いろいろな方から、何度も勧められた三河市民オペラ。
「市民◯◯」と聞くと「アマチュアの発表会」「完成度よりは参加者の満足度」「家族や友達が応援」…そんな固定観念を持っていた私に渡されたのが一冊の本「三河市民オペラの冒険(水曜社)」。
その解説には「成功する『市民オペラ』のための、感動のマニュアル。赤字は絶対に出さない!2840枚のチケット完売!素人集団の地元経済人たちの市民オペラ制作の記録」とある。かなりそそられる。
「名古屋をどり」という日本舞踊公演を、80年近く続けている、名古屋に本拠地を置く日本舞踊の流派を預かる身としては、放っておけないコピー。
そして一昨年「アンドレア・シェニエ」で実際に舞台を見ることになり、豊橋駅を降りた。タクシーに台数が少なく、次の女性お2人もそれらしい気配を出しているため「もしかしてオペラですか?」と声をかけ乗り合わせること。道すがら「そんなにすごいんですか?」「とにかくすごいんですよ」と、想像しようがない言葉で熱っぽく話す2人に、いよいよますます期待が膨らんだ。
さて本当の舞台は今どきに言えば「激アツ」だった。本で読んだ情熱あふれる制作陣、一年がかりで稽古した市民参加のコーラスは一人ひとりが演技力抜群、その勢いにのせられて、一流のプロたちによる最高のパフォーマンス。奇跡的な三つ巴で、超満員の観客は大熱狂。
ひとりの「魂の叫び」から始まったムーブメントは、こうして5回目の大成功を収めた。
しかしこの方法にはひとつの問題がある。
大いなる感動の燃料が、その燃料を燃やし切るほどの情熱、その源は「毎回解散」「失敗したらやめてしまう」という背水の陣の覚悟から来るもの。「今しかない」「後がない」「一回こっきり」の絶大なパワー。これは「システム化」「誰でもできる」「普遍化」とは相反する。事業承継にはつきもののジレンマ。
熱力学第二法則「エントロピー」では、水に熱いお湯を入れるといずれぬるくなる。何事も混ざって中和するという科学的法則で、これを社会学になぞらえると、いつまでも熱の高さを維持することはできない。
ここでファウンダーの制作委員長、鈴木伊能勢氏から聞いた言葉が思い浮かぶ。
「文明は残るけど、文化はその人が居なくなったら終わる」
三河市民オペラの文化は残って文明となるのか…。
たとえば各地にこの意思が伝染する、という考えがある。触発されて各地の市民オペラはおろか市民活動がこの「情熱」というものと向き合うと、いま低迷している日本は蘇るのではないだろうか。
我々西川流は「家元」という「熱源」を継承している。しかしながら熱の種類は時代とともに変わる。楽茶碗の家元は「不連続の連続」というらしい。実際に後進にテクニックを教えるのではないが、その意思は継承されていく。
なればこそ、この「三河市民オペラ」にインスパイアされた動きが継承されれば、この情熱を重要視する志が継承され、表面は時代とともに変わっていけばよいのではないか。
最後に西川流に残る言葉を、三河のチャレンジャーたちに贈りたい。
「創造なくして継承なし、継承なくして創造なし」
◇
西川千雅(かずまさ)
日本舞踊家・西川流四世家元。家元の家に生まれ、幼稚園から高校まではインターナショナルスクール、米国ニューヨークの美術大学を卒業、家業を継ぐ。昭和20年より続く「名古屋をどり」主催者を継承。岡崎市「グレート家康公葵武将隊」愛知県「あいち戦国姫隊」などの観光PR隊プロデュースや、名古屋市「やっとかめ文化祭」ディレクター。6大学で客員教授や非常勤講師、健康舞踊NOSSを主宰するため49歳で藤田医科大学で修士取得。
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