県内に伝わる不思議な話や怖い話を収録した「愛知怪談」(竹書房)が好評だ。4月下旬に発売されると地元を中心に話題となり、5月には重版が決まった。全58話のうち、三河地区の怪談6話を担当したのが豊橋市で東三河地方の民話を研究する内浦有美さん(46)だ。
内浦さんが書いた作品には、地元に伝わる「本坂トンネルに現れる口裂け女」「ごひんさま」のほかに、軍都豊橋を背景にした「ゲートルを巻いた兵の霊」の話もある。旧陸軍第15師団の跡地をさまよう兵士の影、軍靴の響き。「発売前は戦争の題材を扱う不安が大きかった」と振り返る。
豊橋は戦前、軍事施設を抱えた「軍都」だった。1945年6月の空襲では市街地の大半が焼け、624人が命を落とした。現在の愛知大学にも旧陸軍第15師団の司令部棟(現大学記念館)や門跡、旧将校集会所などが残っている。
内浦さんは大学を卒業して企業に勤めた後、2010年に「うちうら」を起業。12年に豊橋に戻り「ばったり堂」を立ち上げた。豊橋に伝わる話をまとめた本「豊橋妖怪百物語」の発刊など、言い伝えを地域の魅力に変える活動を続けてきた。
だが「実際に体験していないし、研究者でも遺族でもない。経験した人々の痛み、悲しみを自分が語ってはいけない」と戦争の話は避けてきた。それが40代に入りこれまでを振り返るなかで、「自分なりに伝えていきたい」という思いが強くなってきたという。
その一歩が今回の執筆だ。図書館で数十冊の書籍にあたり、現地に何度も訪れて書き上げた。「戦争にまつわる話を怪談として語っていいのだろうか」と思うたび、筆が止まった。入稿直前までこの作品を外すかどうか悩んだ。
戦争を題材に書く決意ができたのは、信頼できる仲間の存在だった。共著者や編集者ら「この人たちとなら土地に伝えられてきた思いを正しく届けられる」と信じた。作品について「民話や怪談などの口承文学は長い年月をかけて、その土地の人々の口から口へ、変化しながらも伝わってきた。自分も先人から腕を試されている」と笑顔を見せた。
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1998年浜松市生まれ。昔からの夢だった新聞記者の夢を叶えるために、2023年に入社した。同年からスポーツと警察を担当。最近は高校野球で泥だらけの球児を追いかけている。雨森たきびさん(作家)や佐野妙さん(漫画家)らを取り上げた「東三河のサブカルチャー」の連載を企画した。読者の皆さんがあっと驚くような記事を書けるように日々奮闘している。趣味はプロ野球観戦で大の中日ファン。
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